代表部の仕事:市場を開く対話の力 ~WTO市場アクセス委員会の現場から~

令和8年6月26日
市場を開く対話の力
~WTO市場アクセス委員会の現場から~

 
髙宮雄大  二等書記官
 
 1 私は2023年から当代表部に着任し、WTOにおいて主に物品貿易に関する委員会等を担当してきました。本稿では、特に市場アクセス委員会(Committee on Market Access: CMA)に焦点を当て、CMAの意義や担当としてどのような姿勢で業務に取り組んできたかについて紹介したいと思います。

 2  CMAは、WTOにおいて、各国の関税譲許表の管理やWTO協定において一般的に禁止されている数量制限を監視する役割を担っています。特に、「特定貿易懸念(Specific Trade Concerns:STC)」という議題において、物品の円滑な輸出入を妨げ得る他の加盟国の措置に対して直接懸念を表明し、説明や是正を求める機会が確保されている点にその意義があります。CMAは法的拘束力のある判断を行う場ではありませんが、紛争解決システムにおける上級委員会が機能不全となっている中、懸念を提起することで、措置を実施する国に対して国際的な説明責任を促す機能を有しています。また、当該措置の影響を直接受けていない加盟国に対しても、問題意識を喚起する役割も果たしています。CMAは加盟国間の認識共有及び連携促進の場としても、その重要性を増していると言えます。

3 近年の具体的なSTCとして、日本は米国・EUとともに、ある加盟国による重要鉱物に対する輸出管理措置を提起しています。議場では、不透明で予見可能性を損なう過剰な輸出管理措置によるビジネスへの悪影響について懸念を表明し、措置の即時撤回を要請してきました。また、重要鉱物の輸出管理は「世界的な」サプライチェーンに混乱を及ぼす点を述べ、他の加盟国に対しても措置の非合理性や経済的依存がもたらすリスクについて関心を惹起してきました。今では、重要鉱物に係る輸出管理措置は、WTO加盟国の間で継続的に議論される重要な課題の一つとなっています。

4 加盟国間の連携もCMAを効果的に活用するための重要な手段です。定期的な意見交換を通じて、相手がどのような課題に直面しているのか、前回CMAから進展はあるか等を相互に共有し、解決に向けた協力の可能性を探っていきます。任期中は、加盟国との継続的な対話が重要であるとの考えの下、関係国との会合を主催するとともに、WTOにおける日常的な意見交換の機会を積極的に設けるよう努めてきました。このような積み重ねを通じて関係国との信頼関係が深まり、議場外での率直な意見交換や協力にもつながったと感じています。

5 近年、経済安全保障上の観点から導入される措置や、保護主義的な色彩を帯びた貿易措置が増加しています。CMAは、こうした措置に対して加盟国が懸念を表明し、透明性の向上や説明責任の確保を求めるとともに、加盟国間の認識共有や連携を促進する重要なマルチのフォーラムとなっています。日本にとっても、自国の経済的利益を守るのみならず、ルールに基づく多角的貿易体制を維持・強化するための基盤として、その価値は今後さらに高まっていくものと考えています。
 
(本稿は執筆者の個人的見解を示すものであり、日本政府の見解を示すものではありません。)

(代表部の関税譲許表チーム)

  

(最後のCMA後に関係国と)