代表部の仕事:世界知的所有権機関(WIPO)における国際著作権の議論の動向

令和4年7月26日
世界知的所有権機関(WIPO)における国際著作権の議論の動向
 
 寺坂 公佑 一等書記官
 
 WIPOの活動全般については、代表部の仕事「世界知的所有権機関(WIPO)の活動と国際的な知的財産保護」の記事をご覧いただければと思いますが、ここでは国際著作権に特化してご紹介します。
 
1 著作権に関する国際機関「WIPO」の役割
   知的財産(知財)に関する国際的な制度調和を促進するミッションを持つWIPOにおいて、著作権は主要な取組分野の一つであり、著作権等常設委員会(SCCR:Standing Committee on Copyright and Related Rights)を通じて、条約交渉など著作権分野における国際的な制度枠組みに関する議論が行われています。
 
【著作権等常設委員会(SCCR)の様子】

   著作権分野の基本的な条約として、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(ベルヌ条約)」や「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(ローマ条約)」が、WIPOの設立前にも存在していましたが、デジタル化・ネットワーク化の進展により、音楽や映像のネット配信等が活発化するにつれてこれらに対応した国際的な保護を進めていく必要性が生じました。そこで、ベルヌ条約やローマ条約を補うための条約として、
  I 著作権に対応する「WIPO著作権条約」(WCT:1996年採択)、
  II レコード製作者、実演家の権利に対応する「WIPO実演・レコード条約」(WPPT:1996年採択)、
  III 視聴覚実演に関する北京条約(北京条約:2012年採択)
が採択されたほか、
  IV 世界の視覚障がい者や読字障がい者の著作物へのアクセスを改善するための「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に 障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(マラケシュ条約:2013年採択)
が採択されるなど、他の知財分野と比べても多くの条約が成立しています。こうした条約策定等の取組を通じ、WIPOは著作権分野における国際的な調和の取れた保護を促進しています。
 
2 現在の主なトピック:放送条約
   現在、SCCRにおいては、放送機関の保護に関する条約について議論が行われています。この条約は、上記のWPPTにおいて放送事業者の権利が対象とされなかったことから、各国の放送事業者やその団体の要望により、1998年から継続して議論が行われています。
   条約を採択するための「外交会議」の開催に向けて、保護の対象や放送の保護のために与えられる権利といった基本的な点について合意を得るべく議論が行われていますが、世界各地域におけるデジタル技術の進化や新しいサービスの登場、著作権に関する各国の法体系の違いなどもあり、現時点では合意に至っていません。
   条約交渉においては、対面で議論しながら、条文案の修正作業を進めていくことが重要ですが、新型コロナウイルスの影響により、一時は議論を行うことが難しい状況になりました。しかしながら、議長と有志国がオンラインで非公式会合を開催するなど議論を前に進めるための努力がなされてきました。ハイブリッド形式ではあるものの久しぶ りの通常会合となった本年の第42回SCCRでは、条約案の新たなドラフトテキストが示され、加盟国やオブザーバーも交えてテキストに関する質疑や意見表明が行われました。
   代表部では、こうした公式・非公式の会合に首都の担当者とともに参加するほか、日頃から各国の代表部を通じて条約案への検討状況の情報収集や連携に関する調整をしたり、WIPO事務局との窓口となって各種連絡・調整を行うなど、現地に立地している利点を活かした活動を展開しています。