代表部の仕事:第15回UNCTAD総会:Withコロナ時代の国際会議とは 

令和4年2月7日

第15回UNCTAD総会:Withコロナ時代の国際会議とは 
 

内村 江里 専門調査員

 
 2021年10月に開催された第15回UNCTAD総会は、新型コロナウイルスのパンデミック発生後初の国連による主要な貿易と開発に関する会議となりました。そこで、代表部のUNCTAD担当として同総会の成果文書交渉に携わった様子をお伝えしたいと思います。(なお、以下は筆者の私見であり、当代表部や日本政府の公式見解ではありません。)

 


(写真:総会終了後、事務局や各国の担当官との昼食会の様子)

 

[UNCTADについて]
 UNCTAD(国連貿易開発会議)は主に開発途上国が開発、貧困削減、世界経済への統合のための原動力として貿易と投資を使用できるようにすることを目的とし、関連課題の調査研究、技術支援、議論の場の提供を行う国連の機関です。4年に一度の総会はUNCTADにおける最上位の政策決定機関であり、195加盟国が国際的な経済問題について討議し、また次の総会までの活動計画を策定する場です。組織の詳細及び前回の総会については、私の前任である宮城専門調査員の記事をご参照いただければ幸いです。
 
 第15回総会が当初予定されていた2020年は、SDGsを含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を達成するために行動する10年が始まるはずでした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックは既存の課題の達成をより困難なものにし、新たな脆弱性を生み出しました。この文脈での脆弱性とは、自然災害、金融崩壊、紛争、今回のパンデミックのような健康に関する危機の影響を受けやすい状態を意味し、しばしば女性、若年者、障がい者、高齢者、難民などが脆弱性の高いグループとされます。例えば、総会主催国のバルバドスはカリブ海に位置する小島嶼開発途上国(SIDS : Small Island Developing States)であり、自然災害、気候変動による影響、輸入依存といった特有の脆弱性を抱えています。脆弱性によって拡大した国内外の不平等は、政策立案者が直面する最も困難な問題の1つであり、今回の総会のテーマは「不平等と脆弱性からすべての人の繁栄へ(From Inequality and Vulnerability to Prosperity for All)」となりました。


 

(写真:国連欧州本部会議場でJZを代表してステートメント発表をする筆者)

 

[第15回総会成果文書の交渉]
 今回の総会でも日本は、JUSSCANNZ(JZ)という主にEUを除いた先進国から成るグループの一員として成果文書の交渉にあたりました。前回総会以降、韓国と英国が新たにJZの仲間になっています。私が当地に着任した頃は、ちょうどスイス国内での新型コロナウイルスの感染者の減少やワクチンの普及に伴う規制緩和が行われ、JZ内メンバー間で対面でのネットワーキングの機会もありました。これは、第15回総会成果文書交渉が本格化した時期であり、コロナ禍でオンライン会議が多い中、その後のチームワークにおいてとても役立つ機会でした。JZグループ内のコンセンサスを得る手間がある一方、例え自国発の主張ポイントではなく、同じグループ内で合意を得た他メンバー国の主張であっても、その国の不在時には代わりに全力で交渉にあたりました。私のこれまでのILO等の他の国際機関での経験から、加盟国は各国独立した活動を行うことが多いと認識していたので、非常にユニークな経験でした。JZだけでなく、同じ先進国グループとして密に連携をするEUグループの担当官や、途上国グループ(G77)の担当官とも積極的に意見交換を行いました。私を含む各国の担当者の多くはUNCTAD以外に、WTOの様々な交渉分野も兼任しているので、UNCTADでの活動は良いネットワーキングにもなっています。
 
 前回総会では会期前の交渉が難航し、成果文書の60%を会期中の5日間でまとめることになりました。しかし、今回は新型コロナウイルスの感染拡大によりハイブリッド形式の開催となり、交渉官によるひざ詰めの交渉が不可能なことから、総会で成果文書を採択するためには、事前にほぼ完成させておくことが求められました。第1原稿が2020年12月に貿易開発理事会(TDB)議長から回付されて以降、立場の隔たりの少ないパラグラフから交渉(私が着任する2021年6月までは完全オンライン交渉、それ以降は主に対面とオンラインを併用したハイブリッド交渉)され、総会開催初日までに90%まで合意した状態にまで準備が進められました。前回総会経験メンバー国や事務局の経験を生かし、また議長やフレンズ・オブ・チェアという議長をサポートする各国大使によるリーダーシップに、各国が応えた結果だと思います。
 
 特に9月に入ってからは交渉のスピードが非常に速くなり、交渉の状況をふまえ議長が提案する文言案も頻繁に示される中、首都と時差の大きい日本や豪州はタイムリーな対応をするためにも最善の努力をしました。私も我が国の国益が損なわれないように、代表部の上司とも相談した上で、外務本省の同僚に何度も急なお願いをし、調整できる時間がきわめて限られていた中で、関連省庁や関連部局との難しい調整を適切に連携してもらいました。また、G77には100か国以上のメンバー国が参加し、その各国に担当者がいるため、マンパワーがJZの何倍もある中で交渉に参加し続けるために、効率的で臨機応変なチームワークを行いました。ハイブリッド交渉を生かし、自分はリモート参加しながら会場にいるJZメンバーにメッセージツールなどを使って交渉に参加することもしばしばありました。一般的な交渉方法は前回総会と類似しているので、詳細は先述の記事をご覧下さい。
 
UNCTADの常設執行機関であり、日本はTDBの執行部副議長を2021-2022年度に務めています。
 
 


(写真:バルバドスから中継されたモトリー総理による開会挨拶をジュネーブの国連欧州本部にて視聴する様子)

 

[第15回総会の様子]
 第15回総会は、元々2020年10月に予定されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、一旦2021年4月に延期され、再延期を経て10月3日から7日に開催されました。開会式や主要な全体会合は主にバルバドスの首都ブリッジタウンで行われ、現地入りしたUNCTAD事務局長や各国閣僚を含む登壇者による発言をオンラインで視聴するハイブリッド形式になりました。一方、バルバドスの貿易大臣はジュネーブ入りし、もう一つの成果文書である主催国起草の政治宣言の交渉をリードしました。バルバドスはとても小さな国でありながら、優秀な外交官が多いと他国の担当官も声をそろえていましたが、私も先進国と途上国両方の意見を効果的にまとめている姿を見て、そのことを実感しました。会期中は、閣僚級円卓会議や各国代表からのステートメント発表などのプログラムが開催されました。我が国からは政府を代表して山﨑当代表部大使がステートメントを発表しました。その裏で成果文書の交渉が大詰めになっていたため、私は交渉の方に集中していました。閉会式で成果文書が採択されたときは非常に達成感があったことを覚えています。
 

 

(写真:JZのメンバーと成果文書がまとまった後の一枚)

 

[次回総会(第16回)に向けて]
 次回第16回総会はUNCTAD設立60周年にあたる2024年に予定(変更の可能性あり)されています。それまでの間、今回の成果文書にまとめられた活動計画を実施すべく、2022年前半にも話し合いが開始されます。ポストコロナ時代をより包括的且つ持続可能で公平な回復力のあるものにするためには、成果文書の交渉以上にその確実な実行が重要になるため、引き続きメンバー国としてJZの仲間と協力しながらUNCTADの活動をフォローしていきたいと思います。