代表部の仕事:WHOと代表部
WHOと代表部
小泉 貴人 一等書記官
【WHOについて】
「全ての人々が可能な最高の健康水準に到達すること。」を目的とし、感染症対策だけでなく、医薬品・食品の安全対策、健康増進対策等も行う国連機関。1948年4月に設立され、日本は1951年に加盟しました。加盟国数は194カ国となっており、職員数も世界で8000人近くおり、ジュネーブにある国連機関の中では最も規模の大きい機関の一つです。
ジュネーブ所在のWHO本部(当代表部撮影)
【WHOでの多国間協議】
●代表部の主な仕事の一つが多国間での協議ですが、WHOは全員での合意を目指すコンセンサスを基本原則としています。自国の主張を繰り返しているだけでは合意に至ることはできないため、自国の主張をしつつも、どうやったら全員に受け入れられる主張となるかを考えながら、協議の交渉に臨む必要があります。
●一つ例をあげると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが宣言された直後のWHO総会では、パンデミックの備えや対応に関する決議が各国で協議されました。日本も数多くの主張を行いましたが、必ずしもそのまま受け入れられない主張もありました。そのような時は、各国の反対意見を整理し、日本の主張したいエッセンスを維持しつつ、表現を見直します。そして、確実にそれを通すために、事前に関係国と調整をして、会議の場では日本の主張をそれらの国に支持してもらうといったことを通じて、最終的に日本として納得のいく決議となりました。
●もう一つ、日本が主導した多国間協議の例をあげたいと思います。日本が推し進めるUHC(ユニバーサルヘルスカバレッジ)については、UHCに関する決議案をタイとともに提案して、共同議長国となりました。一方、UHCは各国にとっても非常に重要なテーマでもあるため、通常なら3,4回で決着がつく協議を10回重ねても合意に至りませんでした。この決議がまとまらなくても仕方が無い、と主張するグループもいる中、議長として折衷案を提案したり、会議を中断して、関係者で協議をする時間を確保したり、コンセンサスに至りやすい状況をいかに作るのかということに苦心しました。最終的には、期限30分前にコンセンサスに至り、なんとか決議をまとめることができました。
【WHOが発信する情報の迅速な収集】
新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、WHOに対する世界の注目度は一段と高まり、WHOも情報を発信するために、毎週記者会見を行うようになりました。そのため、WHOの記者会見では、WHOの取組や政策に関する新たな情報が提供されるとともに、すぐに日本のメディアでも取り上げられます。そのため、日本にとってはとても重要な記者会見となるため、速やかに記者会見の概要を作成して、日本の関係省庁に共有するといったことも重要な仕事の一つです。
WHOによる記者会見の様子
【日系企業支援】
●WHOには、医薬品や検査薬の品質承認を行うPQ(Prequalification)という仕組みがあります。元々は国連機関が医薬品等を調達するにあたっての参考指標としての位置づけでしたが、途上国では自国で医薬品等の承認を行う十分な体制がないため、PQを取得した医薬品等を調達したりします。そのため、企業にとってはPQの取得がビジネス上重要になってくるケースがあります。一方、PQを取得するだけでは不十分で、PQを取得した製品を以下に各国等に購入してもらい、展開していくかが重要になってきます。
●その展開に関わる国際機関がジュネーブに集中しています。そのため、企業の方と話をし、国際展開していく上で、どの機関のどの組織と連携していくのがよいのかを提示したりします。また、そのような国際機関は日頃から世界中の企業からの面会要望も多く、面会の設定も容易ではない時もあるため、面会を円滑に設定するため、面会の目的や話の進め方等を事前に整理して、助言したりもします。実際にそれを通じてPQの取得から国際展開に成功した例もありますが、成功につなげられるよう、我々の日頃の勉強も欠かせません。