代表部の仕事:国際機関の選挙活動
令和5年1月30日
国際機関の選挙活動
上野 喬大 一等書記官
私は2019年6月から2022年11月までの間、総務省からジュネーブ日本政府代表部に出向し、国連専門機関の一つで情報通信(ICT:Information and Communication Technology)を所管する国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)を担当しました。任期中は、新型コロナウイルス感染症を踏まえた働き方が求められ(テレワークやオンライン会議へのシフト)、また、コロナ禍で通信のコネクティビティ確保の重要性が再認識され、同時に、様々な場面でデジタル、サイバー、インターネット等のキーワードが取り上げられる機会が増えたため、これらの動向をフォローすべく、慌ただしく、あっという間に時間が経過したように感じます。こうした私の赴任生活で最も印象深い経験はITUの幹部選挙を担当したことです。
(本稿は執筆者の個人的見解を示すものであり、日本政府の見解を示すものではありません。)
1 重要性が高まりつつあるITU
はじめに、ITUについて簡単に御紹介します。ITUのミッションは、「ICTで世界をつなぐこと」です。そのために、電波や衛星軌道の国際的な分配、電気通信技術の標準化、途上国に対する開発支援などに取り組んでいます。スマートホンやテレビなど私たちの生活にはICTで溢れていますが、それらで使う電波や機器同士の互換性を確保するためのルールは、ITUで標準化が行われています。
近年では、世界的なデジタルトランスフォーメーションの流れの中で、ICTがSDGs達成に不可欠な要素として位置づけられたことにより、ITUへの期待は大きくなっていると感じます。進展の早い最新技術の標準化はもちろんのこと、デジタル格差やジェンダー格差など様々な社会課題の解決のためにICTの活用が求められ、また、その前提となる通信のコネクティビティ確保のための支援は途上国を中心にニーズが拡大しています。
近年では、世界的なデジタルトランスフォーメーションの流れの中で、ICTがSDGs達成に不可欠な要素として位置づけられたことにより、ITUへの期待は大きくなっていると感じます。進展の早い最新技術の標準化はもちろんのこと、デジタル格差やジェンダー格差など様々な社会課題の解決のためにICTの活用が求められ、また、その前提となる通信のコネクティビティ確保のための支援は途上国を中心にニーズが拡大しています。
2 ITUの幹部選挙
今回のITU幹部選挙は、上述のとおり、ITUの重要性が高まっている中で行われました。ITUには、事務総局長、事務総局次長、無線通信局長、電気通信標準化局長、電気通信開発局長の5つの幹部ポストがあります。それぞれ個別に行われる選挙で選出され、任期は1期4年で2期まで務めることができます。選挙はITUの全構成国の代表が参加するITUの最高意思決定機関である全権委員会議で行われます。直近では2022年9月にルーマニア・ブカレストで全権委員会議が開催されて、その際に幹部選挙が行われました。今回の選挙では、現職の事務総局長、事務総局次長、電気通信標準化局長が2期目を終えマネジメント体制が大幅に変わるタイミングであったため、選挙結果に大きな注目が集まりました。日本からも次期電気通信標準化局長ポストに尾上誠蔵氏(日本電信電話株式会社CSSO(Chief Standardization Strategy Officer))が立候補しました。電気通信標準化局は、通信ネットワーク技術の標準化を担う重要な部門であり、日本からも多くの専門家が同局の標準化活動に参加しています。任期中にBeyond5G(6G)の実現が見込まれる2030年頃に向けた次世代通信ネットワークに関して標準化活動が行われることが想定されており、光通信や量子暗号技術含め複雑な要素技術の組み合わせを考慮した上で検討していく必要があるため、同ポストには、専門的な知識を持ったリーダーシップが求められていました。日本としても、現在Beyond5G(6G)の実現に向けて研究開発等を積極的に進めているところであり、ITUにおける本分野での標準化に関わるルール作りを主導する本ポストの獲得を重視してきました。
○ITUの幹部選挙の結果
https://pp22.itu.int/en/elections/elections-results/
○ITUの新たなマネジメント体制
https://www.itu.int/en/osg/Pages/itu-management-team.aspx
○ITUの幹部選挙の結果
https://pp22.itu.int/en/elections/elections-results/
○ITUの新たなマネジメント体制
https://www.itu.int/en/osg/Pages/itu-management-team.aspx

尾上氏を支えた日本の選挙チーム(筆者は左から2番目)(https://www.flickr.com/photos/itupictures/52394901543/)©ITU/Rowan Farrell
3 具体的な選挙活動
日本政府が尾上氏を局長候補として擁立することを公表したのは2021年9月で、選挙が行われたのは2022年9月ですので、選挙活動は1年以上に及びました。具体的にどのようなことをやったのかというと、情報通信分野における尾上氏の専門的知見等候補者の強みを紹介しつつ、カウンターパートへの支持要請、選挙情勢の情報収集、選挙PRのためのレセプションの開催などです。ジュネーブ代表部では、大使が先頭に立ち相当数の支持要請を行い、私はそのサポートの役割を担いました。ジュネーブではITU加盟国193カ国のほとんどが代表部を置いています。東京及び世界中の首都で行われる支持要請の状況を把握しまた、各国との関係も考慮した上で、働きかけを行います。非常に骨の折れる作業ではありましたが、国際社会における日本の高い評価を実感できた得難い経験となりました。
選挙活動の中で特に思い出に残っているのは、金子前総務大臣のジュネーブ出張時に合わせて開催したレセプションです。大使はじめ多くの館員のサポートを得つつ各国のジュネーブ代表部の大使やITU担当者を招き、尾上氏のビジョンや人柄をアピールしました。会場では、尾上氏との意見交換を求める列も見られ、後日カウンターパートからも良いレプセプションだったとお褒めの言葉もいただきました。海外でレセプションを開催するという初めての企画であり、準備は手間取り、多くの時間を費やしましたが、それも報われた思いがしました。
選挙活動の中で特に思い出に残っているのは、金子前総務大臣のジュネーブ出張時に合わせて開催したレセプションです。大使はじめ多くの館員のサポートを得つつ各国のジュネーブ代表部の大使やITU担当者を招き、尾上氏のビジョンや人柄をアピールしました。会場では、尾上氏との意見交換を求める列も見られ、後日カウンターパートからも良いレプセプションだったとお褒めの言葉もいただきました。海外でレセプションを開催するという初めての企画であり、準備は手間取り、多くの時間を費やしましたが、それも報われた思いがしました。

選挙レセプションの様子
4 当選という結果を受けて
選挙活動を通じて、多くの国から日本への信頼や期待の声が聞かれました。これは、長年にわたる日本の国際社会に対する貢献、ITUの活動への貢献が評価されたからだと思います。今回の選挙で尾上氏がITUのマネジメント体制に加わることが決まり、日本としては、このチャンスを活かし、Beyond5G(6G)分野を含む通信ネットワーク分野の標準化に積極的に取り組むとともに、ITUで策定した標準を世界中に浸透させるべくITUとの関係をより一層強化していく必要があると思います。個人的にも、このポジションでの経験を今後に活かしていきたいと思います。