代表部の仕事:WTO:機能と改革
令和5年4月20日
WTO:機能と改革
加藤 美帆 一等書記官
世界貿易機関(WTO)では、毎日様々な貿易に係る議論が、バイ(二国間)やマルチ(多国間)、少数国等様々な枠組で行われています。日本政府代表部では、各職員がそれぞれJapanとして、担当の会議に参加します。

【筆者(WTO大会議室にて)】
1 WTOの機能
WTOは、加盟国が互いにWTO協定の実施状況をモニタリングし、新たな課題に対応するための議論や交渉を行い、また協定実施に係る争いを解決することを主な機能としています。国際取引が日常的に行われる現在、WTO協定は空気のように存在し、あらゆる経済活動の基礎になっています。互いに市場の開放を約束し、制度の透明性を高めると同時に、他国の国内産業に損害を与える参入方法を禁止するなど、グローバルな経済活動に共通ルールを設け、当該法秩序を維持するための唯一の機関がWTOです。
2 通常会合の役割:一つの例
2019年7月、私の着任後最初の会合対応は、物品貿易理事会で我が国の主張を行うことでした。この会合では主に他国の制度のWTO協定整合性の議論が行われますが、この日の議題の一つとして、日本の輸出管理運用について韓国が提起しました。政治的に注目されていた本議題だけは大使が参加して発言する方針となり、広い議場で日韓の両大使が私を挟んで座る画が報道されました。
こうした議場内外での議論により問題解決に近づく場合もあれば、そうでない場合も多いですが、このようにして、当地では日々、WTOルール違反を問い、あるいは正当性を主張し、問題解決を促すための議論が行われています。
WTOは、加盟国が互いにWTO協定の実施状況をモニタリングし、新たな課題に対応するための議論や交渉を行い、また協定実施に係る争いを解決することを主な機能としています。国際取引が日常的に行われる現在、WTO協定は空気のように存在し、あらゆる経済活動の基礎になっています。互いに市場の開放を約束し、制度の透明性を高めると同時に、他国の国内産業に損害を与える参入方法を禁止するなど、グローバルな経済活動に共通ルールを設け、当該法秩序を維持するための唯一の機関がWTOです。
2 通常会合の役割:一つの例
2019年7月、私の着任後最初の会合対応は、物品貿易理事会で我が国の主張を行うことでした。この会合では主に他国の制度のWTO協定整合性の議論が行われますが、この日の議題の一つとして、日本の輸出管理運用について韓国が提起しました。政治的に注目されていた本議題だけは大使が参加して発言する方針となり、広い議場で日韓の両大使が私を挟んで座る画が報道されました。
こうした議場内外での議論により問題解決に近づく場合もあれば、そうでない場合も多いですが、このようにして、当地では日々、WTOルール違反を問い、あるいは正当性を主張し、問題解決を促すための議論が行われています。

【日韓大使に挟まれての物品理事会会合対応】
3 WTO改革
WTOの機能のうち、交渉及び紛争解決機能については,その不全と改革の話が広く認識されていますが、ここではより対外的に見えにくい審議機能の改革の話を少しご紹介したいと思います。
着任来、当地での私の一つの「ライフワーク」のようになっているのが、通報制度改善です。WTO通常会合での上記のような議論は、主に各加盟国からWTOに通報された貿易関連措置の内容を審議する形で行われますが、そもそもWTOへ通報されないという問題が、加盟国増加に伴い顕著になっています。これを特に問題視した米国が、通報義務違反への罰則を導入する提案を起案し、日本も、EU他と共に共同提案国として、採択に向けた他国への働きかけと提案改訂の議論を重ねてきました。
この結果、通報不履行による透明性欠如の問題は広く認識され、賛同国もずいぶん増えましたが、義務不履行の追求になおインド、南アフリカを筆頭に多くの途上国が強い警戒感を示し、10回以上の提案改訂を重ね罰則を削除した今も合意に至っていません。
世間的に注目されやすい、新たな交渉分野についての議論が行われる裏で、このようにWTO体制の維持にとって不可欠な既存義務の履行が「なぜ実施されないのか、どうしたら実施されるか」、また、解決策を提示する提案に「なぜ合意出来ないか、どうすれば合意出来るか」、各担当が頭を悩ませ、反対する加盟国と直接意見交換しながら、同志国での議論を重ねています。
4 おわりに
加盟国が多様化した現在、WTOにおける全会一致の原則の下では何も決められないと言われ久しいですが、提案の採択が近づいた瞬間、また遠ざかった瞬間、議場で一喜一憂している自分や他国の同志がいることに気づきます。こうした瞬間、全会一致の難しさを肌で感じつつもなお、各自が代表する国・地域の利益のため、またWTOルールを基盤とする多国間貿易体制の維持改善のために、望みを持って当地での任務にあたっているのだと気づかされます。
WTOの機能のうち、交渉及び紛争解決機能については,その不全と改革の話が広く認識されていますが、ここではより対外的に見えにくい審議機能の改革の話を少しご紹介したいと思います。
着任来、当地での私の一つの「ライフワーク」のようになっているのが、通報制度改善です。WTO通常会合での上記のような議論は、主に各加盟国からWTOに通報された貿易関連措置の内容を審議する形で行われますが、そもそもWTOへ通報されないという問題が、加盟国増加に伴い顕著になっています。これを特に問題視した米国が、通報義務違反への罰則を導入する提案を起案し、日本も、EU他と共に共同提案国として、採択に向けた他国への働きかけと提案改訂の議論を重ねてきました。
この結果、通報不履行による透明性欠如の問題は広く認識され、賛同国もずいぶん増えましたが、義務不履行の追求になおインド、南アフリカを筆頭に多くの途上国が強い警戒感を示し、10回以上の提案改訂を重ね罰則を削除した今も合意に至っていません。
世間的に注目されやすい、新たな交渉分野についての議論が行われる裏で、このようにWTO体制の維持にとって不可欠な既存義務の履行が「なぜ実施されないのか、どうしたら実施されるか」、また、解決策を提示する提案に「なぜ合意出来ないか、どうすれば合意出来るか」、各担当が頭を悩ませ、反対する加盟国と直接意見交換しながら、同志国での議論を重ねています。
4 おわりに
加盟国が多様化した現在、WTOにおける全会一致の原則の下では何も決められないと言われ久しいですが、提案の採択が近づいた瞬間、また遠ざかった瞬間、議場で一喜一憂している自分や他国の同志がいることに気づきます。こうした瞬間、全会一致の難しさを肌で感じつつもなお、各自が代表する国・地域の利益のため、またWTOルールを基盤とする多国間貿易体制の維持改善のために、望みを持って当地での任務にあたっているのだと気づかされます。

【5月夕刻のWTOテラス:バイ会合を終えた会議室からの眺め】