代表部の仕事:対話を積み重ねる、多国間農業交渉の最前線
令和8年10月2日
対話を積み重ねる、多国間農業交渉の最前線
西川真由 参事官
1.WTO農業交渉とは何か
農業交渉」と聞くと、関税や補助金など専門的な議論を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、WTOの農業交渉はそれだけではありません。世界の食料安全保障や持続可能な農業の実現に向け、多様な価値観を持つ加盟国が対話を重ねる外交の舞台でもあります。
2.信頼関係が交渉を支える
ジュネーブのWTOでは、各国の農業担当官が集まり、公式会合だけでなく、少人数での意見交換などを通じて議論を深めています。交渉の行方は、会議室での発言だけで決まるものではありません。日頃から互いの考え方や関心を理解し、率直に意見を交わせる信頼関係を築くことが、建設的な議論につながります。そのため、私は各国の農業担当官とのコミュニケーションを大切にし、日本の考え方を丁寧に伝えることを常に意識しています。
3.日本の農業担当官として
ジュネーブには世界中から166の加盟国・地域出身の外交官が集まります。その中で、日本の考え方を理解してもらい、必要な時に真っ先に相談相手として思い浮かべてもらえる存在になることは、私にとって大切な使命です。公式会合では論点を整理し、日本の立場を論理的に説明する一方、会議の合間の何気ない会話や昼食なども貴重な外交の機会です。そうした積み重ねが信頼を生み、難しい交渉局面で率直な意見交換ができる関係へと発展していきます。
4.ER(Export Restriction:輸出規制)を巡る議論をリードする
現在、日本が農業交渉において特に力を入れている論点の一つが、ERです。ERとは、食料の輸出国が、国内の需給逼迫や価格高騰などを背景に、農産物の輸出を禁止する等数量を規制する措置を指します。輸出国にとっては国内の食料供給を守るための政策手段となる一方、国際価格の上昇や食料安全保障にも大きな影響を及ぼし、食料輸入国にとっては必要な食料を安定的に調達できなくなるおそれを生じさせます。日本は食料の多くを海外から輸入する立場として、ERに関するルールの透明性と予見可能性を高めることの重要性を一貫して訴えてきました。現在も日本は、関係国と連携しながらERの議論をリードしています。ただ、日本の主張だけを一方的に説明するだけではなく、輸出国の事情や懸念にも耳を傾けつつ、輸出規制を行う際の情報共有や通報のあり方など、実現可能な着地点を探ることは、まさに日頃築いてきた信頼関係が問われる交渉です。日本は世界有数の食料輸入国である一方、高品質な農産物や持続可能な農業技術を有する国でもあります。こうした日本ならではの経験や考え方を国際社会に発信し、多様な立場の国々との橋渡し役を果たしながら、日本の食料安全保障に直結するERの議論を前に進めていくことに、大きな責任とやりがいを感じています。
5.多様な立場をつなぐ交渉
WTOには、農業大国、小島嶼国、後発開発途上国など、置かれた状況が大きく異なる加盟国・地域が集まっています。同じ「農業」でも、それぞれが抱える課題は全く異なります。だからこそ、一つの立場だけではなく、多様な視点に耳を傾けながら交渉を進める姿勢が求められます。その中で重要だと感じているのは、既存のグループの枠組みだけにとらわれず、それぞれの国との間に共通する利益や関心を見いだしていくことです。例えば、ERを巡る議論では、G10と呼ばれる日本と同じ食料輸入先進国との連携だけでなく、アフリカの食料輸入途上国とも、「食料輸入国」という共通の立場から連携できないかと考え、会合での共通の発言を検討したことなどもありました。
先進国・途上国、食料輸出国・食料輸入国といった様々な立場が交錯する中で、それぞれの国が抱える事情や関心を理解し、どこに共通の利益を見いだせるのか、そしてどのような国々と連携すれば議論を前に進められるのか。様々な観点から、実益のあるアプローチを考えていくことも、多国間交渉に携わる上での大きな学びであり、やりがいの一つだと感じています。
6.対話の積み重ねが未来をつくる
WTOの農業交渉は、農業協定をはじめとする制度やルールを議論する場であると同時に、国と国、そして人と人との関係の積み重ねによって動いていく場でもあります。日々の対話を通じて相手国の立場を理解し、日本の考え方を誠実に伝える。その中から、時には従来のグループを越えた新たな連携の可能性を探っていく。そうした一つひとつの積み重ねを、ERをはじめとする具体的な農業交渉の成果につなげ、日本の食料安全保障に貢献していきたいと考えています。
農業交渉」と聞くと、関税や補助金など専門的な議論を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、WTOの農業交渉はそれだけではありません。世界の食料安全保障や持続可能な農業の実現に向け、多様な価値観を持つ加盟国が対話を重ねる外交の舞台でもあります。
2.信頼関係が交渉を支える
ジュネーブのWTOでは、各国の農業担当官が集まり、公式会合だけでなく、少人数での意見交換などを通じて議論を深めています。交渉の行方は、会議室での発言だけで決まるものではありません。日頃から互いの考え方や関心を理解し、率直に意見を交わせる信頼関係を築くことが、建設的な議論につながります。そのため、私は各国の農業担当官とのコミュニケーションを大切にし、日本の考え方を丁寧に伝えることを常に意識しています。
3.日本の農業担当官として
ジュネーブには世界中から166の加盟国・地域出身の外交官が集まります。その中で、日本の考え方を理解してもらい、必要な時に真っ先に相談相手として思い浮かべてもらえる存在になることは、私にとって大切な使命です。公式会合では論点を整理し、日本の立場を論理的に説明する一方、会議の合間の何気ない会話や昼食なども貴重な外交の機会です。そうした積み重ねが信頼を生み、難しい交渉局面で率直な意見交換ができる関係へと発展していきます。
4.ER(Export Restriction:輸出規制)を巡る議論をリードする
現在、日本が農業交渉において特に力を入れている論点の一つが、ERです。ERとは、食料の輸出国が、国内の需給逼迫や価格高騰などを背景に、農産物の輸出を禁止する等数量を規制する措置を指します。輸出国にとっては国内の食料供給を守るための政策手段となる一方、国際価格の上昇や食料安全保障にも大きな影響を及ぼし、食料輸入国にとっては必要な食料を安定的に調達できなくなるおそれを生じさせます。日本は食料の多くを海外から輸入する立場として、ERに関するルールの透明性と予見可能性を高めることの重要性を一貫して訴えてきました。現在も日本は、関係国と連携しながらERの議論をリードしています。ただ、日本の主張だけを一方的に説明するだけではなく、輸出国の事情や懸念にも耳を傾けつつ、輸出規制を行う際の情報共有や通報のあり方など、実現可能な着地点を探ることは、まさに日頃築いてきた信頼関係が問われる交渉です。日本は世界有数の食料輸入国である一方、高品質な農産物や持続可能な農業技術を有する国でもあります。こうした日本ならではの経験や考え方を国際社会に発信し、多様な立場の国々との橋渡し役を果たしながら、日本の食料安全保障に直結するERの議論を前に進めていくことに、大きな責任とやりがいを感じています。
5.多様な立場をつなぐ交渉
WTOには、農業大国、小島嶼国、後発開発途上国など、置かれた状況が大きく異なる加盟国・地域が集まっています。同じ「農業」でも、それぞれが抱える課題は全く異なります。だからこそ、一つの立場だけではなく、多様な視点に耳を傾けながら交渉を進める姿勢が求められます。その中で重要だと感じているのは、既存のグループの枠組みだけにとらわれず、それぞれの国との間に共通する利益や関心を見いだしていくことです。例えば、ERを巡る議論では、G10と呼ばれる日本と同じ食料輸入先進国との連携だけでなく、アフリカの食料輸入途上国とも、「食料輸入国」という共通の立場から連携できないかと考え、会合での共通の発言を検討したことなどもありました。
先進国・途上国、食料輸出国・食料輸入国といった様々な立場が交錯する中で、それぞれの国が抱える事情や関心を理解し、どこに共通の利益を見いだせるのか、そしてどのような国々と連携すれば議論を前に進められるのか。様々な観点から、実益のあるアプローチを考えていくことも、多国間交渉に携わる上での大きな学びであり、やりがいの一つだと感じています。
6.対話の積み重ねが未来をつくる
WTOの農業交渉は、農業協定をはじめとする制度やルールを議論する場であると同時に、国と国、そして人と人との関係の積み重ねによって動いていく場でもあります。日々の対話を通じて相手国の立場を理解し、日本の考え方を誠実に伝える。その中から、時には従来のグループを越えた新たな連携の可能性を探っていく。そうした一つひとつの積み重ねを、ERをはじめとする具体的な農業交渉の成果につなげ、日本の食料安全保障に貢献していきたいと考えています。

「アジアグループのメンバーと(筆者は左の列の一番端)」