代表部の仕事:投資円滑化協定を巡る議論
令和8年6月26日
投資円滑化協定を巡る議論
高橋 亜紗美 二等書記官
1995年に設立され、昨年創設30周年を迎えたWTOは、多角的貿易体制の礎としての役割を維持しつつ、国際経済環境の変化に対応する変容を求められています。時代に即したルール作りを可能にすることは重要な課題であり、従来のWTO協定にとどまらない分野についても議論が行われています。本稿(注)では、担当業務の1つである「開発のための投資円滑化協定(Investment Facilitation for Development Agreement: IFDA)」を巡る議論についてご紹介します。
(注)本稿は執筆者の個人的見解を示すものであり、日本政府の見解を示すものではありません。

(注)本稿は執筆者の個人的見解を示すものであり、日本政府の見解を示すものではありません。
(WTO30周年記念イベントオブジェ)

1.海外展開を後押しする新たなルール
本企業は、製造業、インフラ、資源、サービス業など幅広い分野で海外展開を行っています。もっとも、海外で事業を行う際には、現地での制度や行政手続の分かりにくさ、許認可取得の長期化、行政機関ごとに異なる運用などが大きな課題となることがあります。特に開発途上国では、こうした課題が投資判断に影響する場合もあります。投資円滑化協定は、投資関連制度や規制の透明性向上、申請手続の電子化、行政手続の迅速化などを通じて、より予見可能で効率的な投資環境を整備することを目指しています。こうした取組は、開発途上国を含む海外市場への日本企業の展開を後押しすることが期待されています。
2020年9月から協定の条文交渉を開始し、2024年2月の第13回WTO閣僚会議(MC13)の機会に交渉完了を確認し、協定テキストを公表する閣僚宣言を発出しました。
本企業は、製造業、インフラ、資源、サービス業など幅広い分野で海外展開を行っています。もっとも、海外で事業を行う際には、現地での制度や行政手続の分かりにくさ、許認可取得の長期化、行政機関ごとに異なる運用などが大きな課題となることがあります。特に開発途上国では、こうした課題が投資判断に影響する場合もあります。投資円滑化協定は、投資関連制度や規制の透明性向上、申請手続の電子化、行政手続の迅速化などを通じて、より予見可能で効率的な投資環境を整備することを目指しています。こうした取組は、開発途上国を含む海外市場への日本企業の展開を後押しすることが期待されています。
2020年9月から協定の条文交渉を開始し、2024年2月の第13回WTO閣僚会議(MC13)の機会に交渉完了を確認し、協定テキストを公表する閣僚宣言を発出しました。
(2026年3月に行われたMC14の様子)


2 「開発のための」協定としての特徴
同時に、この協定は、その名に「for Development」という言葉が含まれているとおり、開発途上国や後発開発途上国の経済成長につながるような協定であることが強みとされています。2026年5月時点で、131のWTO加盟国が共同提案国となっており、その大半は開発途上国・LDCメンバーです。このこと自体が、投資円滑化が単に一部の先進国の関心事項ではなく、多くの途上国が自国の経済成長や投資誘致のために必要と考えていることを示していると言えます。
また、協定の特徴の一つが「ニーズアセスメント」関連規律に含まれる仕組みです。各国が自国制度と協定規律との間にどのようなギャップがあるかを確認し、その結果を踏まえた協定実施を可能としていることに加え、能力のあるドナー国が能力構築を支援していくという考え方が組み込まれています。当地で開発途上国によるニーズアセスメント関連の報告や議論に参加する中で、協定によってルールを作るだけではなく、参加各国が実際に協定を実施できるようにすること、それにあたって国内の規律を整合的にするために横断的な関係者と共に取り組むことの重要性が強調されています。
3 WTO協定への組込
もっとも、この協定が注目される理由は、その内容だけではありません。より大きな論点は、「WTOでどのように新しいルールを作るのか」という観点からの貢献です。WTOは加盟国全員の合意を基本とする組織です。しかし、加盟国が166に達する現在、その166カ国全てが合意できる新しいルールを作ることは容易ではありません。そのため近年では、参加を希望する有志国が先行してルールを作りWTO協定への組込みによって発効させる「プルリ(複数国間)協定」という形も模索されており、投資円滑化協定は、その試金石とも言われています。
4 最後の一歩を越えるために
WTOはしばしば停滞していると言われますが、ジュネーブで感じるのは、日々行われている「次の時代のルール」を模索する地道な営みです。投資円滑化協定についても、多くの加盟国がその意義を共有しながら、なおWTO協定への組込みによる発効という目標には至っていません。この目標を実現するためには、支持を積み上げるだけでは足りず、異なる立場や懸念を持つメンバーとの間で共通の着地点を見いだすことが必要になります。
ジュネーブでの仕事の面白さは、長期間の積み上げによって、まさにその「最後の一歩」をどう埋めるかにあるのだと感じています。その実現に向けた努力が続く中、日本らしい建設的な貢献を目指して取り組んでいきます。
同時に、この協定は、その名に「for Development」という言葉が含まれているとおり、開発途上国や後発開発途上国の経済成長につながるような協定であることが強みとされています。2026年5月時点で、131のWTO加盟国が共同提案国となっており、その大半は開発途上国・LDCメンバーです。このこと自体が、投資円滑化が単に一部の先進国の関心事項ではなく、多くの途上国が自国の経済成長や投資誘致のために必要と考えていることを示していると言えます。
また、協定の特徴の一つが「ニーズアセスメント」関連規律に含まれる仕組みです。各国が自国制度と協定規律との間にどのようなギャップがあるかを確認し、その結果を踏まえた協定実施を可能としていることに加え、能力のあるドナー国が能力構築を支援していくという考え方が組み込まれています。当地で開発途上国によるニーズアセスメント関連の報告や議論に参加する中で、協定によってルールを作るだけではなく、参加各国が実際に協定を実施できるようにすること、それにあたって国内の規律を整合的にするために横断的な関係者と共に取り組むことの重要性が強調されています。
3 WTO協定への組込
もっとも、この協定が注目される理由は、その内容だけではありません。より大きな論点は、「WTOでどのように新しいルールを作るのか」という観点からの貢献です。WTOは加盟国全員の合意を基本とする組織です。しかし、加盟国が166に達する現在、その166カ国全てが合意できる新しいルールを作ることは容易ではありません。そのため近年では、参加を希望する有志国が先行してルールを作りWTO協定への組込みによって発効させる「プルリ(複数国間)協定」という形も模索されており、投資円滑化協定は、その試金石とも言われています。
4 最後の一歩を越えるために
WTOはしばしば停滞していると言われますが、ジュネーブで感じるのは、日々行われている「次の時代のルール」を模索する地道な営みです。投資円滑化協定についても、多くの加盟国がその意義を共有しながら、なおWTO協定への組込みによる発効という目標には至っていません。この目標を実現するためには、支持を積み上げるだけでは足りず、異なる立場や懸念を持つメンバーとの間で共通の着地点を見いだすことが必要になります。
ジュネーブでの仕事の面白さは、長期間の積み上げによって、まさにその「最後の一歩」をどう埋めるかにあるのだと感じています。その実現に向けた努力が続く中、日本らしい建設的な貢献を目指して取り組んでいきます。
(WTOでの会合に出席する執筆者)

