代表部の仕事:真冬のスイスで開催されるダボス会議期間中の熱い議論 (WTO関連閣僚級会合主催を含む当代表の対応)

令和5年5月15日
 
真冬のスイスで開催されるダボス会議期間中の熱い議論
(WTO関連閣僚級会合主催を含む当代表部の対応)

 
相川 航 一等書記官
吉江 翼 一等書記官
 
 
 本年1月16~20日に、スイス東部ダボスで、世界経済フォーラム(World Economic Forum: WEF)の年次会合(通称、ダボス会議)が開催されました。この時期のスイスは真冬で、外は厳しい寒さになりますが、ダボス会議では、政府関係者、企業経営者、知識人等の世界の各界のリーダーが一堂に会し、経済のみならず環境や気候変動など地球規模の課題についても熱い議論がなされる場として世界中の注目を集めています。
 
                                      
                                 会議直前の会場前の様子。          会議期間中は最低気温が-16℃、最高気温が-8℃の日も。

 新型コロナウイルスの影響で3年振りに冬のダボスで開催となった本年の会合には日本からも多くの各界リーダーが参加しました。日本政府からは西村康稔経済産業大臣、河野太郎デジタル大臣、後藤茂之経済再生担当大臣が参加し、様々なセッションへの参加、各国要人との会談が行われました。また、ダボス会議に併せて開催されたWTO関連閣僚会合には、西村経済産業大臣及び山田賢司外務副大臣が出席しました。本稿では、WTO関連会合のうち日本政府が共催した閣僚会合について御紹介するとともに、ダボス会議のための事前・当日の当代表部のロジスティック対応についてもご紹介したいと思います。
 

ダボス会議のセッションに参加した西村経済産業大臣、河野デジタル大臣、後藤経済再生担当大臣。

 
1 ダボス会議に併せて日本政府が共催したWTO関連閣僚級会合
 WTOでは、様々な分野において交渉、議論が行われていますが、そのうちの一つが、日本が豪州及びシンガポールと共同議長を務める電子商取引に関するグローバルなルールの策定交渉です。電子商取引は、一般的には、物やコンテンツ、サービス、情報をオンラインで購入・利用等する取引や貿易のことを指します。インターネットが普及し、デジタルが社会に浸透している今日、電子商取引は、世界の経済や社会にとって不可欠なものとなっていますが、既存のWTOの貿易ルールではカバーされていない側面があります。例えば、オンラインで国境を越えて物やサービスを購入・利用する際は、必ずといっていいほど国境を越えるデータのやりとりが必要になりますが、このデータの越境流通に関し、そもそも原則自由なのかそうでないのか、流通が制限される場合はどういう理由でどういう手段でなされ得るか、個人情報とそれ以外で異なるのかなど、WTOでの一般的なルールは現在のところ存在しません。こうした既存のWTOの貿易ルールではカバーされていない領域について、共通のルールが形成されれば、世界的に電子商取引等が拡大する中で、取引や貿易の安定性を実現すると同時に、我が国を含む各国の経済成長にも貢献することができます。その中で、2019年、我が国は、豪州、シンガポールとともに、WTOにおいて電子商取引等に関する新たなルールをつくる有志国の交渉を共同議長として立ち上げました。当初71か国・地域で始まった交渉の参加メンバーは時間の経過とともに拡大し、現在では89か国・地域(2023年4月時点)に至り、これらの国・地域で世界貿易の90%以上を占めています。

 本交渉では、これまで累次事務レベルの交渉会合を重ねてきましたが、交渉を更に加速化させることを目的に、今般、閣僚会合が開催されました。閣僚会合の準備は多岐にわたります。招待国やアジェンダに加え、会場(レストラン)の確保やメニューの検討、当日の対応(座席配置、発言の時間配分、閣僚の写真撮影)、会合後に発出する共同議長声明とプレスリリースの調整など、共同議長国である日本、豪州、シンガポールの当地代表部の担当は、12月の初旬から会合前日の夜まで多くの時間をこの閣僚会合の準備に充てました。

 西村経済産業大臣と山田外務副大臣が共同議長を務めた今般の会合では、参加した22カ国の多くの閣僚から、これまでの交渉の順調な進捗の評価に加え、交渉の更なる進展と妥結に必要な論点への対応に向けた建設的な提案がなされました。その上で、2023年末までの実質的な妥結を目指すという方針が合意されました。長らく続いたコロナ禍の後、久々に対面で開催された政治レベルの会合であり、各国の貿易担当閣僚の一体感の醸成と交渉の更なる進展に大きな勢いがついた会合となりました。

                          
                        電子商取引閣僚会合での議論の様子                           同閣僚会合参加者

 閣僚会合の後も、休む間もなく交渉は続いており、毎月ジュネーブで1週間弱開催される交渉会合に首都の交渉官や各国の代表部の担当官が参加し、交渉の進展と早期の合意形成に尽力しています。WTOには様々な異なる立場・考えの国や地域が存在していますが、電子商取引等という新たな成長分野でのルール策定に向け、各国・地域が相互の違いを乗り越えて交渉にあたっています。

(参考)
•共同議長国閣僚声明(和文仮訳(PDF)英文(PDF)
•共同プレス発表(和文仮訳(PDF)英文(PDF)

2 ダボス会議のための事前・当日のロジスティック対応
 ダボスは、国際空港のあるチューリヒから車で2時間以上かかるスイス・アルプスの山岳地帯に位置し、大都市からのアクセスが良い場所とは決して言えません。当代表部があるジュネーブからも車で5時間以上かかる場所にあり、容易に行ける場所ではありませんが、一部の館員が事前視察を行い、会議が行われる国際会議場、宿舎、移動ルート等を確認する他、代表部からも多くの関係者に情報収集を行い、会議当日に向けた準備進めました。ダボスは山間の小さな町であり、道路の数は少なく道幅も狭く、また会議期間中は、会議参加者のみアクセス可能な制限区域の設定や交通規制を行うため、町中で大渋滞が発生します。したがって、会議に参加する日本の要人が可能な限りスムーズに移動し会議参加に支障がでないよう、現地の地理を把握し、また、当日の交通状況を想定しつつ、車でどのルートを通るのか、もしくは徒歩で移動するのか等のシミュレーションを行いました。
 なお、会議期間中は極寒であり、また雪が降る可能性もあるため、さまざまな場面を想定しつつ、柔軟な対応をとれるようにしておくことも重要であり、この点がダボス会議の準備及び当日対応が、他の会議に関するものと違う難しさがある点になります。

                               
         雪が降りしきる中での直前の会場視察。              会議期間中に代表部のロジスティック拠点となった
                                                                              建物周辺の景色。

 また、事前視察に先駆けた準備は既に夏から始まっています。ダボス会議期間中、ダボスには世界中から参加者が集まることもあり、会議期間が近づくとダボス及びその周辺の町々で宿舎、要人用の会談室や当日のロジスティック対応の拠点となる会議室を確保するのは困難になるため、夏から関係者と調整を行っています。
 このように、本年月のダボス会議の際も、当代表部の多くの館員が一丸となって長い期間をかけて準備をし、当日も難しい状況の中で事前準備を踏まえた対応を行いましたが、真冬のダボスという厳しい条件下での会議において日本の要人が最高のパフォーマンスを発揮する一助となれたのではないかと思っています。