ジュネーブの国際機関で活躍する日本人職員 国際移住機関(IOM) 深川啓(ふかがわ・けい)さん

令和4年2月2日
 
 

Q1 所属機関の役割や目的について教えてください。

 国際移住機関(IOM)は、世界的な人の移動・移住の問題を専門に扱う国連機関です。IOMは、「正規のルートを通して、人としての権利と尊厳を保障する形で行われる人の移動は、移民と社会の双方に利益をもたらす」 という基本理念に基づき、紛争や自然災害、あるいは気候変動によって引き起こされる人の移動に伴い、緊急人道支援を含む活動を実施するとともに、加盟国政府への政策提言や技術支援、地域協力の促進、調査研究などを通じて、人の移動に関わる世界課題の解決に努めています。
 現在の加盟国は174ヵ国(2021年10月現在)で、本部はスイスのジュネーブにあります。フィールド主体の組織という特徴があり、世界の9ヵ所に地域事務所を置くとともに、100を超える国と地域に500以上のフィールド事務所があります。また世界的に人の移動および経済に大きな影響を与えている新型コロナウィルスの感染拡大後は、国境閉鎖やさまざまな渡航・移動制限の影響を受けた人々への支援や、パンデミックと人の移動に関するデータ収集および解析、また加盟国政府および他の国連機関やパートナー組織と連携し、コロナ禍の安全な人の移動において大きな役割を担う政府職員への能力強化事業等の活動を続けています。

Q2 現在のお仕事の内容を教えてください。

 IOMのジュネーブ本部において、出入国・国境管理部及びIOM開発基金の二つの部署をかけ持つ形で勤務をしています。

(1)出入国・国境管理部での業務について
 昨今、世界の様々な地域で、地域経済統合における人の移動の自由化や、開発の観点から見た域内貿易の促進など、人とモノの移動の円滑化がもたらし得る機会や利点に関する議論が活発に行われる一方で、各国政府は、非正規な人とモノの移動、人身取引、パンデミックなど様々な課題を抱えています。IOMの出入国・国境管理部門では、関連する国際法、国連安全保障理事会決議、および様々な国際基準に則り、国境を越える人やモノの移動が正規のルートで安全に行われ、国家の開発及び経済発展を促し、治安・テロ対策にも寄与するよう、加盟国政府への政策提言や技術支援を行っています。それぞれの国や地域の課題に合わせて、現地調査や政府機関との連携を通じて、政策面および法整備に向けた支援、組織改革および省庁間連携の促進、出入国・国境管理プロセスの最適化やデジタル化の提案および実施、政府職員への研修等を行うことにより、多角的に人とモノの移動に関するガバナンスを向上させることを目的としています。これらの取り組みは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与するものです。
 本部での主な職務内容としては、IOMの出入国・国境管理に関わる事業分野のグローバル戦略の立案や、地域事務所およびフィールド事務所向けのガイダンス・事業指針の策定、他の国連および国際機関とのグローバルパートナーシップ構築に向けた交渉業務、外部および内部の作業部会への参加、地域事務所およびフィールド事務所との連携・調整およびサポート業務、本部に提出される事業提案書の審査および承認など、多岐にわたります。2016年の「移民と難民に関するニューヨーク協定」によりIOMが国連に加入し、その後「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバルコンパクト:Global Compact for Migration (GCM)」が加盟国の参加によって採択されたことで、国連システムとの調整業務や、国連主導の作業部会やアセスメントへの参加なども増えました。
 また、新型コロナウィルスの感染拡大後は、出入国・国境管理を担う政府機関および職員が、国境地点(Points of Entry)において、国際保健規則(IHR 2005)や感染予防の基準に則り適切に対応することができるよう、IOMの保健部門を含む他部署と連携して、国境地点におけるニーズ評価の手法を構築したほか、それぞれの国および政府機関の状況に応じて改訂可能な標準作業手順書(Standard Operating Procedures)策定のサポートなどを行いました。さらに、IOM内部のPoint of Entryに特化した分野横断的な作業部会に参加して、パンデミックと人の動き、および国境地点のニーズに関するデータ収集およびデータの可視化に関わる業務を担当する他、ワクチン接種デジタル証明書などの新たな国際的な取り組みについて、安全で公平な人の移動の重要性を考慮した政策提言などを担当しています。

https://www.youtube.com/watch?v=mEnQB7mfONs
深川さんが制作を担当した、コロナ禍における安全で公平な人の移動、および国境管理に関わるセクター・組織間連携の重要性に関するIOMの動画

(2)IOM開発基金での業務について
 IOM開発基金は、加盟国政府の移民・移住分野の能力強化を目的として2001年に創設され、これまでに100以上の国と地域で800以上の事業を支援しています。IOM開発基金の事業は、基本的にIOM加盟国政府機関とIOM国事務所による共同実施事業という形をとり、気候変動、人身取引、国境管理、移住と開発、労働者の移動、保健など、人の移動に関わる様々な分野の課題に取り組んでいます。
 基金では、ファンドの管理が主な業務となっており、地域事務所・国事務所から提出される新事業提案書、および現在実施されている事業の中間・最終報告書の審査・承認等を行うと共に、事業形成、実施およびモニタリング、報告、評価のサイクルが全て円滑に進むよう、本部から様々なサポートをしています。この他、ドナー政府および基金の事業を実施している加盟国政府のジュネーブ代表部の担当者と定期的に面会をして、基金の進捗や新たな試み等に関して情報共有をすると共に、新たな事業分野やアイディアなどについて協議しています。基金では特に、モニタリング・評価、および事業の持続可能性を重視しており、実施中の事業地を訪れて中間評価を行うこともあります。これまでにセルビア、フィジー、モンゴル等を訪れ、政府関係者に聞き取りを行い、プロジェクトチームと面会して、中間評価の考察や提案をその後の事業実施に生かすというプロセスを実施しています。
 前職までのフィールドでの事業実施業務と異なり、本部における加盟国政府との政策協議や、国際的な枠組みに関する業務や会議等への参加、および民間セクターとの連携業務などは、これまでとは全く異なる新しい視点や戦略的思考を身につける機会となっていると感じます。これまでの経験を生かして、いかに現場の状況やニーズを理解して、本部から効率的かつ効果的にフィールド事務所をサポートすることができるかという点を常に念頭に置いて仕事をしています。
 
ある日の仕事の流れ:
9:00 出勤・メールチェック
9:30 地域事務所から提出された新事業提案書の審査・承認業務
10:30 ドナー政府のジュネーブ代表部訪問
12:00 IOMフィールド事務所とのオンライン会議
12:30 同僚と昼食
13:30 広報部とのオンライン会議
14:30 局内他部署との難民教育に関するワークショップに向けたコンセプトノートのレビュー
14:30 他の国連機関とのグローバルパートナーシップ構築に向けた協議
16:00 COVID-19関連の内部の作業部会への参加
18:00 退勤


Q3 国際機関で働くことを目指されたきっかけについて教えてください。

 学生時代に、国家・地域間格差、冷戦終結後の紛争、ニューヨーク同時多発テロ等に関しての報道を目の当たりにして、漠然とではありますが、世界課題の解決に少しでも関わる仕事がしたいという思いがあったように思います。様々なバックグラウンドを持つ人たちと仕事をすることができるという環境にも魅力を感じていました。ただし、早い段階から国際機関での就職を強く意識したり、それを見据えてキャリア形成をしたりしてきたというわけではなく、民間での経験を積む中で、国際機関での課題解決に関わる業務に対する興味を強めていった形です。

Q4 これまでのご自身のキャリアについて教えてください。

 イギリスの大学院で開発学の修士号を取得した後、しばらくロンドンで企業勤務をしていました。その後UNHCR駐日事務所でのインターンシップを経験した後に、複数の国際NGOに勤務してイラク・リビア・南スーダンなどで緊急人道支援に携わっていました。その時の経験から、国境を超える人の移動とそれに関連する機会や課題に興味を持ったこと、そしてもう少し時間をかけて政府の能力強化や、仕組み・枠組み作りをサポートする仕事がしたいという思いから、JPO試験を受験し、現在の国際機関を志望しました。

Q5 これから国際機関で働くことを目指す方にアドバイスをお願いいたします。

 自分の興味や情熱、能力、キャリアプランや人生プランに応じて、幾通りものシナリオが描けるのが国際機関なのではないかと思います。ただ、重要性の高い課題にそれなりの権限を持って携わるには、やはり広い視野を持って物事を多角的に見て分析する力、戦略的思考、そしてそれを人に伝える力が非常に重要だと感じます。人との出会いはあらゆる職場において大切ですし、また常に積極性を持ちつつも、様々な国・地域・文化圏で仕事をする中で、定期的なリアリティチェックを怠らない謙虚さというのも、国際機関で働く上で貴重な資質ではないでしょうか。頑張ってください。

(深川さんは、2021年11月からIOMウクライナ事務所に異動し、事業調整官として勤務されています。)

 
外務省国際機関人事センターのホームページでは、JPO制度を始め、国際機関に就職するために役立つ情報を多く掲載しています。是非ご覧ください!
https://www.mofa-irc.go.jp/

おすすめ情報