ジュネーブの国際機関で活躍する日本人職員 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 赤崎 元太(あかさき・げんた)さん

令和3年8月25日
 

(UNHCRの同僚と。筆者右から3人目)
 
 

Q1 現在のお仕事の内容を教えてください。

 私は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR: United Nations High Commissioner for Refugees)のジュネーブ本部にて、アソシエイト・パートナーシップ・オフィサー(開発)として勤務しています。UNHCRは、1951年に設立され、難民に対する「国際的保護」、緊急事態における「物的援助」、その後の「自立援助」、そして難民問題の解決へ向けた国際的な活動を先導、調整する任務を行っている機関です(UNHCRの概要、UNHCR駐日事務所HP)。
 私はUNHCRの中でも比較的新しい部署であるDivision of Resilience and Solutionsという部局で、2018年12月の国連総会で採択をされた「難民に関するグローバル・コンパクト (Global Compact on Refugees)」に基づき、特に人道・開発・平和構築支援の連携推進業務に従事しています。具体的には、世界銀行を始めとする多国間開発銀行、二国間開発機関、またその他の国連開発機関との連携を通じて、難民受け入れ国・地域における難民の様々な公的サービスへのアクセス拡大、またそうしたホストコミュニティ(受入先)の負担軽減を目指して、各地域局及び各国事務所と共に一丸となって日々業務に当たっています。
 その中でも主な私の業務の一つとして、キャパシティビルディング及びナレッジマネジメントがあります。難民に関するグローバル・コンパクトをきっかけに、UNHCRの国・地域事務所に新たに創設された上級開発担当官(Senior Development Officer)へのサポートを主として、人道・開発・平和構築支援の連携に関する新たな取り組みや知見を収集した上で、UNHCR内部で共有することはもちろん、そうした知見の組織化・体系化を推進しています。これまでに西・中央アフリカ、アジア・太平洋、南アフリカの地域局及びそれぞれの地域局に属する国事務所と共にワークショップをオンラインにて行い、人道・開発・平和構築支援の連携について、好事例や様々な学びを共有しながら組織としての理解を深め、より一層の連携推進に向けて日々の業務に還元する、そうした一連のサイクルを補完する役割を担っています。
 例えば、社会保障や教育制度へのアクセスを、いかに開発機関と連携しながら政府に働きかけ、難民へと拡充させることができたか、といった好事例を上級開発担当官等から収集し、ニュースレターやウェビナーを通じて組織全体に還元する、こうした業務に従事しています。
 
ある日の仕事の流れ
7:30 出勤、メールチェック
8:00 南アフリカ地域局との人道・開発・平和構築支援の連携に関するオンラインワークショップの運営
10:00 南アフリカ地域局の上級開発担当官及び現地スタッフと次回のワークショップに向けたミーティング
10:30 局内マネジメント向けの会議資料作成等
12:00 ドイツ政府開発機関向けレポート作成に関するミーティング
12:30 ランチ
13:00 局内他部署との難民教育に関するワークショップに向けたコンセプトノートのレビュー
14:30 至急依頼のマネジメント向け発言要旨案の作成
16:00 外部のナレッジマネジメントオンラインコース受講
17:30 翌日の予定を確認した後、退勤
 
 また、私はUNHCRの緊急対応チームに2021年7月より所属し、現在エチオピアでの3か月間の緊急ミッションに参加しています。緊急対応チームは、様々な地域・国のスタッフの志願に基づき選抜・登録され、大規模な人道危機に備え待機し、緊急事態発生時にはその要請に応じて随時派遣される制度です。同制度による派遣期間中は、通常のジュネーブでの業務を離れ、現地の国事務所にて各国ドナーとの渉外・レポーティング業務を担当しています。エチオピア到着直後にはUNHCRエチオピア副代表の国内ミッションに同行する機会を頂きました。緊急ミッションへの参加を通じて、更なる難民支援の知見を涵養し、より一層、派遣期間終了後の本部での業務に注力していきたいと考えています。


 

(緊急対応チームで派遣されているエチオピアの様子)
 
 
 

Q2 国際機関で働くことを目指されたきっかけについて教えてください。

 幼い頃から海外で働くことに興味を持ち、外交官や国連職員といった職種を漠然とですが常に目標としていました。メディアを通じて社会・経済的インフラの乏しい国に暮らす人々、また紛争を逃れて行き場を失った人々の脆弱な状況を知るにつれ、日本という平和かつ社会・経済的にも恵まれた国で受けた恩恵を、少しでもそうした脆弱な立場にある人々・社会に還元できればと思い、現在の国際機関での職に至っています。
 前職のNGO勤務時には、チャド南部の難民キャンプにて中・高等教育に関するプロジェクトを運営していたのですが、多くの難民の学生たちが現地の大学への進学に希望を抱く一方、ホストコミュニティの教育システムが脆弱であることから、継続した学びの機会を得ることが難しい状況にあることを目の当たりにしました。
 こうしたNGOの活動を無駄にすることなく、ホストコミュニティの教育システムに組み込み、またその国の教育システムを政策レベルでいかに強化することができるか、という問題意識を抱くようになりました。このことがきっかけで、政府機関等を主なカウンターパートとする国際機関でのキャリアをより強く志向するようになりました。

Q3 これまでのご自身のキャリアについて教えてください。

 中学・高校生の頃から歴史や政治に強い関心を持ち、大学では政治学を専攻し、主にフランス外交を軸として国際政治を学びました。また、学部4年次には卒業を1年間遅らせ、パリ政治学院での交換留学を経験し、その際に出会った様々なバックグラウンドを持った友人達からキャリアや人生観について大いに刺激を受け、国連職員という仕事をより一層意識するようになりました。
 大学卒業後は、社会人経験を積むべく民間企業にて勤務した後、スイス・ジュネーブにある国際開発研究大学院にて開発学を専攻、大学院2年目からは難民の教育支援を行うNGOでインターンシップを行いました。大学院修了後は同NGOでの勤務を開始し、トルコ・レバノン・チャドにて現場でのオペレーションを経験した後、日本でも他のNGOでファンドレイジング等の業務に携わり、国際協力での経験を積んでいきました。
 こうした様々な職務経験を積んだ後に、国際協力の現場でより政策レベルに近い業務にチャレンジしたいという気持ちを強く抱き、外務省のJunior Professional Officer (JPO)制度に応募し、現在に至ります。
 

Q4 国際機関で働く魅力や、やりがいについて教えてください。

 「難民に関するグローバル・コンパクト」を契機に、国際社会がより一層、人道・開発・平和構築支援の連携を通して難民支援というグローバルな課題の解決に関与する中で、国際機関という立場から様々な政府機関やその他のステークホルダーと共にこの課題に取り組むことができること、そのことに非常に大きな魅力とやりがいを感じています。
 特に、難民支援に対する人道・開発・平和構築支援の連携という極めて重要かつ複雑な課題に関し、現場職員をサポートする前線に立ち、UNHCRと様々な多国間・二国間開発機関のパートナーシップがより一層強化されていくプロセスに関わることができること、またそうしたパートナーシップから社会保障や教育制度へのアクセス拡充といった新たな難民支援の形が生み出されていくことが、日々の仕事に対する活力となっています。
 また、これまでの民間企業やNGOでの業務経験を通じて得た、異なる様々なステークホルダーとのコミュニケーション方法は、現在の職場においても大いに役に立ち、また常日頃勉強を重ねる分野でもあります。

Q5 これから国際機関で働くことを目指す方にアドバイスをお願いいたします。

 学生の方から国際機関での就職に関して質問を受ける際に常にお伝えしていることですが、私は、国際機関での就職を目的にし、それに向かってひたすら一直線に進もうとすることがベストであるとは思いません。「なぜ国際機関で働きたいのか?」、「なぜ国際機関でなければならないのか?」を自分自身に問いながら、様々な経験を積み、紆余曲折を経ながらも柔軟に、より自身の核となる興味・関心を追究し、自分にとって「好きなこと」と国際機関で働くことの意味、それらの接点を見つけ出すことが重要ではないかと思います。
 そうしたプロセスを経た後にはきっと、Junior Professional Officer (JPO)制度や様々な国際機関での就職の機会が開けることと思います。
 

 
外務省国際機関人事センターのホームページでは、JPO制度を始め、国際機関に就職するために役立つ情報を多く掲載しています。是非ご覧ください!
https://www.mofa-irc.go.jp/
 
 
  
 

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