館員の声: 高橋知子 インターン生
2017年9月に開催された第36回人権理事会において、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部の人権班の皆様のもとインターンを経験させていただきました、東京大学・大学院・修士2年の高橋知子と申します。今回の学びを共有させていただきます。
1:インターンの概要
人権理事会の期間中はジュネーブのパレ・ナシオンの「建物E・20番」という部屋を主会場としつつ、同時並行で各決議案採択に向けた非公式協議が行われたり、サイドイベントが開かれたりします。インターンの主な仕事は、上記20番にて議事録を作成しておくこと、非公式協議に行って情報を得ること、また訪れてくる各国・NGOからの連絡事項を伝達することです。
2:議場の天井
上述の20番という部屋は、天井がカラフルな突起でデザインされていることで有名ですが、ご覧の通り、突起の角度によって部屋の隅々からの見え方が全く異なります。私自身、同じ問題でも自分の座る位置によって視角が異なることを実感させられる多くの機会に恵まれました。
(写真2:日本の席から見た天井(筆者撮影))
3:国際機関、専門家、NGOとも異なる国という立場
20番では、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が議論の運営をしつつ、時にはパネリストとして専門家が話をしながら、国家やNGOが意見を述べるという形式がとられる場面が多く見られました。私は今まで、国連やNGOにてインターンをし、また修士の学生として国際機関の問題を学術的に見たことはありましたが、国家という立場でこの問題に関わるのは初めてでした。国際機関や専門家は「人権問題」という抽象的な概念を先においてこの問題を掘り下げることが多いのに対して、国家は「外交」を「人権のレトリックを通じて」展開することを実感しました。また、国際機関やNGOでは「積極的なアドボカシー」をすることも多いですが、国家は決議案推進という形でそのようなことをする一方で、言葉ではストレートに表現できない「国内制度を守る」という側面があり、その差異を前提に建設的な対話をすることの難しさを教えていただき、大いに納得しました。
(閉会直後、志野大使・久保田一等書記官とともに)
4:他のどの国でもない日本という立場
今回、日本は「カンボジア人権状況決議」のペンホルダーとしての役割を担っていました。この決議では、当該国家を如何に決議案に繋ぎ留めながら人権促進の方向にもっていくかが鍵となっていたわけですが、当事国の視点に偏り過ぎて人権促進を疎かにするわけにもいかず、一方で、先走り過ぎてもカンボジア自身の参画が難しくなるという事態にありました。各国によって各々の立場への分散が見られるなか、日本は最後まで自身の立場を貫き、最終的に決議の採択に持ち込むことが出来ました。しばしば人権が「西側」「非西欧」といった分断で語られがちであるのに対して、単純には説明できない各国立場の複雑性を垣間見た瞬間でしたし、そこに至るまでの代表部の方々の熾烈な交渉に思いを馳せ感動する一場面でした。
5:俯瞰するのではなくて現在進行形のアクターであるということ
「議事録をとる」といっても、一個人としての作業とは異なり、内容によってはすぐに日本として分析し対応しなくてはならないこともあり、人権外交の最前線にいることを実感しました。また今回は同一のテーマについて2つの決議案が出され、競合する事態も発生し、自分が参加させていただいていた非公式協議や、各方面の働きかけの情報から、パズルのように各国の思惑が見えてくることもあり、その手腕の強かさに感嘆したり、逆に言えば各国が同じくらいの強かさを以て初めてバランスが保てるのだという現実の厳しさを感じたりしました。
今回の経験をもとに、今後の研究や進路に向けて努力していきたいと思います。人権理事会や代表部での集まりにて大変多くの経験をさせてくださいました皆様に心より御礼申し上げます。
(筆者)