第65回WHO総会における阿曽沼厚生労働事務次官政府代表演説(平成24年5月22日)
第65回WHO総会における阿曽沼厚生労働事務次官政府代表演説
(テーマ:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ※)
平成24年5月22日
○はじめに
議長、チャン事務局長、代表各位並びにご列席の皆様
本日ここに日本国政府を代表し、世界の保健衛生課題について、我が国の立場や考えをお話しできることを光栄に思います。
最初に、マーガレット・チャン事務局長の国際保健分野におけるリーダーシップに、大きな賞賛を送りたいと思います。チャン事務局長は、これまで既に、パンデミックインフルエンザへの対応やその準備、非感染性疾患などの分野で大きな成果を挙げてこられました。
また、現在は、複雑化する保健課題に効果的・効率的に取り組むため、WHO改革が推進されています。本件についても、チャン事務局長のリーダーシップが発揮され、改革が成功することを日本政府は期待しています。
○高齢化対策とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ
今年の世界保健デーのテーマは「高齢化と健康:健康であってこその人生」でした。世界は急速に高齢化社会に向かっていますが、これに伴って、非感染性疾患や認知症などによる、高齢者、家族及び社会への負担が急速に増加することが予想されています。
ご存じのように、日本は世界に先駆けて高齢化社会を迎えています。このため日本は、介護保険の導入や、多くの関係者と連携した総合的な健康増進の取組など、高齢化社会への対応を図り、世界一の平均余命を含む高い保健指標を達成してきました。
こうした成功の重要な要因は、約50年前に整備した国民皆保険によるユニバーサル・ヘルス・カバレッジです。その特色として、まず、全ての国民が職業、所得に関わらず、質の高い医療サービスを受けられる点、次に、患者は受診する医療機関を自由に選べる点、さらに、総医療費を比較的抑制することに成功している点などが挙げられます。
国民誰もが安心して医療サービスを受けることができる環境を整備できたことに、我々は誇りを感じております。現在、日本と世界銀行は、日本の経験も活かし、途上国で保健サービスを行き渡らせるため、医療保険等の保健財政や医療人材育成をテーマとする共同研究を進めております。近い将来、研究の成果を皆様にご報告できるものと思います。
○グローバルな保健課題(MDGs、ポリオ根絶)
議長、
乳幼児や妊産婦の死亡率の削減を含めた国連ミレニアム開発目標(MDGs)の期限まで、あと4年となりました。MDGsの達成においても、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは重要と考えます。これまで様々な機会を通じて申し上げてきたように、全ての国民が一定の質の高い医療サービスを受けられるためには、持続可能な保健システム強化が不可欠です。
また、予防接種のように、シンプルで効果の認められている保健介入の、ユニバーサル・アクセスも重要です。現在、ポリオ根絶は、最終の重要な局面を迎えていますが、残念ながら、ポリオ流行国(Endemic countries)3ヶ国においては、状況の後退が報告されています。日本政府は、ポリオ根絶に関する執行理事会の決議を支持し、ポリオ根絶にむけた活動を支援していきたいと考えています。
○日本と世界のつながり(震災復興と野口英世アフリカ賞)
議長、
日本は現在、2011年3月に多くの犠牲者を出した東日本大震災から復興の過程にあります。この災害の傷は深く、復興の道のりもなだらかではございませんが、一丸となって取り組んでいるところです。これまで、日本に対して、各国政府、国際機関、そして世界中の方々から頂きました励ましと支援につきまして、改めて心より感謝の意を表明します。
また、被災地である福島出身で、アフリカで黄熱病の研究に情熱を捧げた野口英世博士を記念し、アフリカに関する医学研究と医療活動に顕著な功績を遂げた者を顕彰する野口英世アフリカ賞を5年に1度行っています。第一回目は2008年にイギリス、グリーンウッド博士とケニア、ウェレ博士が受賞されました。第2回目の授賞式は、2013年6月に横浜で開催する第5回アフリカ開発会議(TICAD V)にあわせて実施する予定です。我が国としては、こうした活動やTICADプロセスを通じた保健分野での取組を通じ、アフリカの保健の向上に貢献してまいります。
○おわりに
議長、
社会の情勢が急速に変化する現代にあって、「健康」の価値と期待がますます高まっていることを感じます。「すべての人々の到達可能な最高水準の健康」を目的とする、WHOの役割と期待も、高まっています。日本も、国際保健コミュニティの一員として、すべての人々が健康を手に入れるため、期待される役割を果たすべく、最善を尽くして参りたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。
※ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ:全ての人々が基礎的な保健医療サービスを享受できる状態を指す概念。
(了)