ジュネーブの国際機関で活躍する日本人職員(世界気象機関(WMO) 信太 邦之さん)
【開発・地域活動部上級調整官(地域・技術統合担当) 信太 邦之さん】
Q1 所属機関の役割や目的について教えて下さい。
世界気象機関(WMO)は、世界的に統一のとれた気象・水文観測の実施、観測データの国際交換、それらのさまざまな分野(航空、海運、農業等)での利用、研究や研修の促進を目的としており、現在185か国、5領域が加盟しています。WMOの前身である国際気象機関は、1873年に設立され、長い歴史があります。
天気予報を行う際には、自国のみならず他の国の気象観測データが欠かせませんので、気象観測は世界中で同じ時間に統一した方式で実施し、その結果を迅速に交換する必要があります。それらの取り決めは、WMOが行っています。また、日本の気象庁は北西太平洋で発生する台風の予測情報を関係国に提供するセンターを担っていますが、このような国際協力の枠組みをつくるのもWMOの役割です。
しばしば誤解されるのですが、WMO事務局では天気予報や気候予測等の実務は行っておらず、各国の気象機関・水文機関(日本では気象庁、国土交通省水管理・国土保全局)の実施する業務の支援を行うとともに、国際協力の取り決めを行う実施調整を行っています。
WMOのホームページは、こちらです。 https://public.wmo.int/en
Q2 現在の仕事について教えて下さい。
WMOでは、気象観測、通信、気象情報の利用(台風、防災、航空、)、気候監視・予測、水文業務、気象及び気候に関する研究等の科学・技術計画を担当する部局とこれらの計画の実施を地域毎(WMOは世界を6つの地域を設定)に支援する地域事務所があり、私は地域事務所の業務実施支援ならびに科学・技術計画部局と地域事務所との調整を任務としています。近年は、部外資金の導入により防災や気候等に関する多くのプロジェクトを実施しており、これらのプロジェクトを地域事務所が効率的・効果的に実施できるよう事務局内外との調整も行っています。
また、WMOでは最近、種々の規則の改正や新たな業務支援ツールが導入されており、これらが部内(特に地域事務所)に周知・徹底するような活動を行っています。
私は、部内外のスタッフと協力していくつかのプロジェクトを実施しています。最近の例としては、日本が打ち上げた新しい気象衛星「ひまわり8号」のデータ受信・解析装置を東アジア・南太平洋の14カ国に設置するプロジェクトに携わりました。
日々の調整業務では、地域事務所に仕事を依頼することが多いのですが、必ずしも当方の期待通りの回答がくるとは限らず、また、地域的な仕事ぶりの違いといったものもあり、粘り強く対応する必要があります。
また、プロジェクトを実施する際は、ドナー、被援助国、選定業者、事務の関係部局との連絡を密にとる必要があります。しばしば予期しない事態が起こり、スケジュールどおりには進まないことが多々ありました。
実際に被援助国に行ってみて、プロジェクトの実施により気象・水文機関の業務が向上したという声を聞くと苦労のし甲斐があったと思います。
今後は、ますます部外資金によるプロジェクトの数が多くなりそうなので、スムーズにそれらを実施できるよう情報交換を密にするなど部内の体制を確立し、を行うことにしています。
Q3 国際機関で働こうと思ったきっかけは何ですか。
気象庁で現業勤務の後、国際室に配属され、WMOへの対応に携わるようになるとともに、WMOの会議等への出席を通じてWMOの業務に興味を持ちました。現業業務で海外のデータを利用していましたが、それらがどのような枠組みで交換されるのか、また、どのような人々がそれらに参画しているのかを自分の目で見る機会が増え、更にJICAの専門家派遣等を通じて途上国の気象機関の現状を見る機会があり、WMOを通じた世界規模での協力活動をしてみたいと思うようになりました。
Q4 これまでにどのようなキャリアを歩んで来られましたか。
気象庁の気象大学校を卒業後、地方気象台で気象観測・天気予報、本庁で海洋(船舶による観測)データの解析、エルニーニョ監視等の現業部門を経験した後、国際室に配属され、WMOやユネスコ海洋学委員会等の国際機関の実施する業務への対応、気象分野の途上国支援に携わりました。
WMOには当時の技術協力部のアラブ・アジア太平洋担当のプログラムマネージャーと採用され、アラブ(リビアや湾岸諸国)やアジア太平洋諸国を対象とするプロジェクトを実施しました。その後、組織改変によりアジア・南西太平洋事務所(所在地はジュネーブ)に統合され、WMOのアジア地区及び南西太平洋地区の地区総会や専門家会議の開催や当該地区での科学・技術計画の実施の支援を行うとともに、引き続きプロジェクトの実施も担当しました。
その後、現職の募集が出たのでそれに応募し、採用されました。
以前、国連フォーラムに私の紹介記事が掲載されましたので参考にして下さい。 http://www.unforum.org/unstaff/145.html
Q5 国際機関や所属機関を目指す方へのメッセージをお願いします。
WMOでは、これまでは主に各国の気象・水文機関の実施する業務の調整を行ってきましたが、近年は防災や気候業務に関わるプロジェクトを数多く実施しています。そのため、従来は各国の気象・水文機関の職員が事務局職員として採用されることが多かったですが、最近は、地球環境問題や他の国連機関・国際機関で種々のプロジェクトの実施に関わってきた方々が採用されるケースも見受けられます。
いくつかの国からは若手がJPOとしてWMOで働いてキャリアを積み、後にWMOの正職員として採用されるケースもあります。WMOでも日本のJPOの募集を出していますので、意欲のある方にはそれへの応募も考えていただきたいと思います。
これまでの私の経験からすると、専門性(募集要項には修士以上とされる場合が多い)は勿論ですが、実際に現地に行ってその国に本当に必要な支援は何かということを現地の方々と議論し、見極める努力が必要です。また、事務局の中では、日本人の発想では考えられない提案をしたり意見を言う人がいますので、それらの人々と粘り強く議論するする気概が必要です。
従来の気象・水文業務のみならず、防災や気候業務に関心のある方々にWMOの仕事について知っていただきたいと思います。
1日の仕事の流れ。
09:00 出勤。
09:00-10:00 メールのチェック・返信、日程確認。
10:00-12:30 部内スタッフとの打ち合わせ、他の部局との会議への出席、日本やアジア諸国への電話連絡。
12:30-14:00 昼食(繁忙時はオフィスで)。
14:00-16:00 他の部局との会議への出席、中米・南米のWMO事務所とのビデオ会議等はこの時間に行う。
16:00-18:30 資料作成を行うことが多い。
18:30頃 帰宅