ジュネーブの国際機関で活躍する日本人職員(国連訓練調査研究所ペロナ晶子さん)
【コミュニケーション及び情報技術サポート課チーフ ペロナ晶子さん】
Q1 所属機関の役割や目的について教えて下さい。
私がJPO時代から働いている国連訓練調査研究所(UNITAR)は、あまり知られていませんが、ジュネーブに本部を置く、国連内のトレーニング機関です。対象は国連職員ではなく、主に途上国の外交官を含む政府機関の職員です。正規職員は40人足らずと、規模は小さいのですが、年に500近くのワークショップや、その他の幅広い能力開発の機会を提供しています。UNITARのトレーニングの受益者は年間4万人にも上ります。ジュネーブの本部以外にも、ニューヨークと広島にも事務所を置いています。
1963年に設立された当時は、60年代に宗主国から独立した多くの、主にアフリカの国の経験の浅い外交官のためのトレーニングを行うための機関として始まりましたが、現在では、外交官トレーニングの他にも、平和構築、紛争予防、気候変動、地理情報システム(GIS)などの多岐にわたる研修を行っています。また、最近では持続可能な開発のための2030アジェンダを国レベルでどのように政策に取り入れ、持続可能な開発目標(SDGs)を達成していくのか、またSDGの達成度を測る統計能力を強化するプログラムなども行っています。
【写真】e-Governanceに関するワークショップにパネリストとして参加
Q2 現在の仕事について教えて下さい。
2010年に、企業でのウェブサイト管理やマーケティングの経験を活かしてコミュニケーション及び情報技術サポート課のチーフ代行として異動し、2013年にチーフに昇格しました。現在の仕事は、コミュニケーションとIT両方の分野のマネージメントをしており、広報、ウェブ、ソーシャルメディア、ブランドマネジメント、IT及びコミュニケーションガイドライン制定や内部トレーニング開催など多岐に渡る仕事内容をカバーしています。
やりがいは、小さな機関なので一人一人の責任範囲が大きく、いろいろな仕事を任されていること。また,大きな国連機関に比べて組織階層が浅く、必要であれば機関トップとも直接話が出来るところでしょうか。一旦、課の年間行動計画と予算が決まれば、比較的自由にプロジェクトを動かせるところもやりがいに繋がっていると思います。
逆に、UNITARはプロジェクトベースの機関で、国連本体からの拠出金は一切頂いておらず、予算規模も小さいので、なかなか数年にまたがる大きなプロジェクトを実施できないところが大変なところです。私の課は、コンサルタントを含めて6人と小さな部署であり、またコミュニケーションと情報技術分野の両方をカバーしているため、常に仕事量が多くいかに効率的にすべてのプロジェクトをこなしていくかが課題です。
しかし、私が異動した2010年にはスタッフ2人で始めた部署なので、この7年間で着実に予算もスタッフも増え、これからはより多岐に渡るコミュニケーション機会をカバーし、IT面でもさらに効率化に貢献できるサービスを提供していくことが目標です。
【写真】上海のワークショップで参加者達と
Q3 国際機関で働こうと思ったきっかけは何ですか。
私が国際的な仕事をしたいと思い始めたのは、高校3年の時に交換留学生としてアメリカに1年間留学した時からです。初めて両親の元を離れて知り合いも全くいない異国の地で、一人で切り拓いていかなければならなかったその時の経験と学んだ英語が今の私につながっています。その後、日本に戻って大学で国際法を選び、卒業後はすぐにアメリカの大学院に進みました。国際政策学の修士号を取得後、アメリカ系のソフトウェア会社で、マーケティング、ウェブサイト開発、プロダクトマネジメントなど色々な役職に就かせてもらい、4年間勤務した後退職しました。
その時点で、すでに30歳。国際機関で働く夢は忘れてはいなかったもの、現実とはかなりほど遠いものとなっていました。そこで軌道修正のため、国連ボランティア※に応募することにしました。UNDPのエチオピア事務所に派遣されることになり、それまでの、ウェブ開発やプロダクトマネジメントの経験を活かして、エチオピアの高校にインターネットを導入するというプロジェクトのサポートをさせていただきました。
(※ 国連ボランティア(UNV): 途上国における開発支援や紛争地域での緊急援助、その後の平和構築活動などに貢献する意志のある市民を世界中から募り、各国政府や国連機関、NGOなどの要請に応じて現地に派遣する制度。ペロナさんのように国連ボランティアとして国連機関や途上国での職務経験を積んで正規の国連職員となった方も多いです。詳しくはこちらをご覧下さい。)
【写真】アメリカ・アトランタのワークショップにて当時のアトランタ市長(Shirley Franklin市長、右から2人目)と。市長は、女性の地位向上に関するワークショップに積極的に参加されていました。
Q4 これまでにどのようなキャリアを歩んで来られましたか。
エチオピアでの勤務は7ヵ月と短かったものの、そこでの経験は何ものにも代えがたいものとなりました。首都アディス・アベバの高校だけではなく、地方都市の高校などにも視察に行きました。そこではNGOなどから寄付されたコンピューターが教室に並べられていましたが、使い方のみならず手入れの仕方も知らない人が多く、大半のコンピューターは砂ぼこりをかぶって、全く使われていない状態でした。政府の要人との会合などで政府機関を訪問した時も、コンピューターは数人に1台配置されていましたが、あまり使われていないのが現状でした。そこで、インフラ整備だけでは意味がなく、そのインフラを使う人たちのトレーニングこそが必要なのだと痛感しました。
エチオピアでの国連ボランティアとしての契約が終わり、帰国後アメリカ系の医療機器の会社に就職したのですが、その年の12月にJPO※の選考試験に合格しました。JPOに合格した時点で、派遣先機関の希望を出すときにエチオピアでの経験からITに関する能力開発を行っている機関に行きたいと思い、UNITARに派遣が決まりました。
私がUNITARにJPOとして入ったときは、まさに私のやりたかった「ITの能力開発」のプロジェクトオフィサーとして、カリキュラムの作成、講師招聘、参加者選択、ドナーとの交渉、予算管理、トレーニングの進行、レポート作成、ドナーへの報告など、トレーニングに関わる1から10までを担当していました。
(※ JPO (Junior Professional Officer): JPO派遣制度は自国の若手職員を国際機関に送り込むために多くの国が実施する制度で、日本では外務省が費用を負担して行っています。詳しくはこちらをご覧下さい。)
【写真】ワークショップで、参加者に終了証を手渡す
Q5 国際機関や所属機関を目指す方へのメッセージをお願いします。
これから国際機関に就職したいと思っている方は、まずは職務経験を積んで仕事のやり方を学んでからJPOなり空席公募なりに応募した方が就職できるチャンスは大きくなると思います。私の場合、17歳の時にアメリカに留学してからJPOになって国連で働き始めるまで16年掛かりました。その間にいくつかの企業で働いて異なった仕事を経験し、また国連ボランティアとして開発途上国で働いたりもしました。時間は掛かりましたが、それまでの経験は全て現在の仕事に役立っているので、決して無駄ではありませんでした。
先ほども書きましたが、UNITARは小さい機関で、国連本体からの拠出金を頂いていないため、常にドナーやUNITARのトレーニング受益者の期待や要望に応えられるようなプログラムを提案し、資金調達をしています。そういう意味では、柔軟性、敏捷性、革新性が重要な要素です。また、若手の職員が多く、インターンやコンサルタントからトレーニングアシスタントや正規職員になった人も数多くいます。私自身もJPOで2年半働いたのち、正規職員にしていただきました。
また、トレーニング機関とはいえ、求められている人材は多岐に渡ります。教育関係のバックグラウンドは言うまでもありませんが、特に成人教育やインストラクショナルデザイン(最適な学習効果のための教育設計)の経験、またマーケティング、コミュニケーション、モニタリングと評価、さらには人事、経理、ITなどのバックオフィスの経験がある人も必要な人材です。トレーニングの部署では、私も以前そうでしたが、海外出張がとても多く、ジュネーブの本部勤務とは言え、途上国の現状を見る機会が数多くあるということも特徴です。能力とやる気があって、積極的にプロジェクトを遂行する姿勢があれば、コンサルタントやJPOから残れる可能性はかなり高い機関だと思うので、これからJPOを考えている人にはお勧めです。
【写真】南アフリカ・ダーバンでのワークショップで現地主催者達と
1日の仕事の流れ。
8:30 娘を学校に送っていった後、出勤。まだ、他の同僚があまり出勤していない静かな間にメールチェック、一日の予定確認。読みたい記事などがあれば読む。
9:00 ウェブサイトのアップデートがあれば、朝のうちに全て済ませる。UNITARのツイッターやフェースブックなどのソーシャルメディアアカウントもチェックし、コメントや質問が来ていたら対応。
10:00 課のスタッフ全員とミーティング。仕事の進捗状況を確認。進んでいないプロジェクトは原因追及し、先のプロジェクトの予定も報告してもらう
11:00 自分の持っているプロジェクトを進める。ウェブコンサルタントからのメールの内容を確認し、返信。レポートや印刷物発行のプロジェクトがあれば午前中の内に推敲や原稿確認を行い、デザイナーや印刷会社との交渉も行う。
15:00 マネージャーミーティングに参加。組織トップや他の部署がどういうプロジェクトを行っているのかを知る良い機会。また、マネージメントグループから同意を得て仕事を進めるために自分の課のプロジェクトの発表をすることもある。
16:00 自分のオフィスのドアは、ミーティングや集中しなければいけないプロジェクトがない限り、常に開けているため、自分の部署や他の部署からの同僚が質問やアドバイスを受けにオフィスに出入りし、その対応に追われる。
18:00 退社
【写真】ジュネーブに本部がある国際赤十字にて、広島の被爆樹木の植林セレモニーで樹木に土をかける。UNITARは被爆樹木の種や苗を世界に送り、平和メッセージを届けるプロジェクトに参加しています。