人権理事会第二回UPRセッション日本政府代表冒頭スピーチ(仮訳)

(5月9日、於:ジュネーブ)
 

 

  冒頭 

1.第2回ワーキンググループ被審査国として、UPRに我が国を代表して出席することを光栄に思います。UPRが本年4月に立ち上がることにあたり、コステア人権理事会議長を始め、各国の皆様のご尽力に感謝致します。また、アルブール国連人権高等弁務官を始めOHCHR事務局の皆様の準備に向けた努力に感謝申し上げます。

 

2.我が国は人権理事会の発足以来、UPRを含めた制度構築等の議論に積極的に参加してきました。UPRは、協力的且つ実効的なメカニズムとなるべきとの理念を共有します。この理念の下、UPRが全ての国の人権状況の改善に資するような制度となることを希望しており、トロイカ諸国やOHCHRに対し最大限の協力を行う所存です。


  国際的取組 

3.まず、人権分野における我が国の国際的な取組を御説明します。

 

 我が国は、人権は国際社会の正当な関心事項であるとの意見を支持しており、それぞれの国の個別の歴史、伝統等の事情を考慮しつつ、「対話と協力」の理念を念頭に置いて対処し、その改善のために積極的な貢献をしていく所存です。
 世界の人権水準の向上のためには、主要人権条約の批准国が増加し、締約国がその義務を尊重し、履行に努めることが重要です。そのような考えの下、我が国は、主要人権条約の多くを既に批准しており、それらの義務の履行に努めています。本年には、児童の権利条約第3回報告、武力紛争選択議定書第1回報告、及び、児童の売買選択議定書第1回報告、並びに、女子差別撤廃条約第6回報告を国連に対し提出しました。障害者権利条約及び強制失踪条約については2007年に署名を行い、現在、可能な限り早期の批准に向けた努力を行っています。また、条約体における、より効果的な監視体制の確立のための条約体改革を支持しております。
 このように、我が国は、国際社会における「法の支配」という価値を推進し、その実現を目指して行動する方針をとっています。その一環として、我が国は2007年10月から「国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規定」の正式な締約国になりました。

 

4.事前質問のあった特別報告者との協力については、我が国としても個々の特別報告者の関心等を踏まえ、時間の許す限り協力するとの姿勢で今後とも個別に訪問を調整していきたいと考えています。 

 また、拷問等禁止条約の選択議定書の締結の可能性についてご質問がありましたが、日本政府としては、本選択議定書に定められている「視察」の具体的な態様等、選択議定書の規定と国内法との関係等につき、検討を行っているところです。

 また、「子の奪取条約」及び「親責任条約」に対する我が国の立場に関する質問を頂きました。日本としては、現段階において「子の奪取条約」及び「親責任条約」を締結していませんが、これらの条約は子の権利と福祉の保護・促進のための一つの有効なツールであると考えられます。日本としても、我が国の社会制度や文化等を踏まえつつ、条約の締結の可能性につき検討を行っています。


  国内的取組 

5.次に、人権保護の促進に向けた我が国の国内取組について説明致します。

 

 我が国は、基本的人権を尊重する憲法に基づき、民主的政治制度を維持し、人権及び基本的自由を擁護・促進する政策を推進して参りました。1947年に公布された我が国憲法では、「国民は全ての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民へ与えられる」と規定しています。我が国は、人権は普遍的な価値であり、自由権・社会権等全ての権利は不可分、相互依存的かつ相互補完的であり、全ての権利は均等に擁護・促進する必要がある、との固い信念の下、国内人権状況の改善のためにたゆまぬ努力を継続してきました。

 

 特に、全ての人々が人権を享有し、幸福な生活を営むためには、国民一人一人がこれを保持する責任を果たすと共に、他人の人権についても正しく理解し相互に人権を尊重し合うことが必要であるとの考えの下、人権教育を重視してきています。特に、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」を2000年に制定し、更に、同法に基づき、2002年には「人権教育・啓発に関する基本計画」を策定し、人権教育の一層の推進を図っているところです。また、外国語通訳を配置した「外国人のための人権相談所」を一部法務局に設置し、各種人権相談に対応しています。

 

 以下、事前質問も踏まえ、より具体的にご説明致します。

6.事前の質問票にて、我が国の国内人権機構の存在及びそのステータスに関する質問がありました。法務省は、2002年3月、新たに独立の行政委員会として人権委員会を設置し、同委員会を担い手とする新しい人権救済制度を創設する人権擁護法案を国会に提出しました。同法案において、人権委員会は、政府からの独立性が確保され、また、所掌事務として、人権救済事務とともに人権啓発事務を扱うほか、政府及び国会に対する意見提出権を有することとされていました。同法案は、2003年10月、衆議院の解散に伴って廃案となり、現在、法務省において引き続き検討を行っています。

 

7.また、我が国の人種差別対策に関する質問がありました。我が国は、1995年に「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(以下「人種差別撤廃条約」という)に加入しました。我が国の憲法は、その第14条第1項において、人種等の差別なくすべての国民が法の下において平等である旨明記しています。
我が国は、かかる憲法の理念に基づき、また、既に締結している経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約においても人種、民族を理由とするものも含め広く差別が禁じられていることを踏まえて、人種、民族等も含めいかなる差別もない社会を実現すべく努力しています。
そして、我が国においては、国内法の執行及び国民一般の人権意識を高めることにより、差別等の人権侵害が生じないよう取り組んでいます。

 

8.女性の差別に関する質問がありました。男女共同参画社会基本法に基づき、2005年12月に閣議決定された「男女共同参画基本計画(第2次)」では、男女共同参画社会の形成に関する施策の総合的かつ計画的な推進のために必要な方策が示されています。
この計画の下、差別撤廃の具体例として、雇用の分野における女性に対する差別の撤廃について、政府としては、①男女雇用機会均等法の履行確保をはじめ、働き続けることを希望する者が就業意欲を失うことなくその能力を伸長・発揮できるための環境整備、②仕事と生活の調和の実現に向けた取組、③ポジティブ・アクションの推進、④多様な就業パターンの選択が可能となるような条件整備等、を行っています。
 NGOについては、2005年に男女共同参画基本計画(第2次)を改定した際、NGOを含む国民各層の意見を求めつつ調査審議を行いました。今後も、男女共同参画基本計画を改定する際には、NGOからの意見を聴取し、参考にしていきたいと考えています。
 婚姻最低年齢に関する質問がありました。1996年2月に法務大臣の諮問機関である法制審議会が「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申しました。この要綱における改正事項の一つとして,婚姻最低年齢を男女共に満18歳とする旨などの提言がされております。この民法改正の問題は,婚姻制度や家族の在り方に関わる重要な問題であり,国民各層や関係方面で様々な議論があることから,現在国民の意見の動向を注視している状況です。

 

9.また、我が国の拘禁者の処遇に関する質問がありました。刑事司法手続に関しては、2005年に受刑者の処遇を全面的に改める法律が成立し、2006年には未決拘禁者等の処遇を全面的に改める法律を成立させる等、積極的な改善努力を行っています。

我が国の留置制度に関する質問がありましたが、我が国では、現行犯人逮捕等緊急の場合を除き、事前に裁判官が発した令状によらなければ被疑者を逮捕することができません。また、逮捕とは別に、その後の留置の必要性について、警察、検察、裁判官と順を追って、それぞれが厳格に判断し、裁判官が勾留場所も含めて、まず10日間の勾留を認めます。延長する場合にも改めて、検察官と裁判官がその必要性を判断し、裁判官が令状を出す必要があります。勾留期間は、延長をした場合でも、全体で20日間の期間を超えることができません。このように、身柄拘束期間が限定されている中で、被疑者の取調べ等の捜査を円滑かつ効率的に行うためには、被疑者を留置施設に留置できる代替収容制度は必要です。
 なお、留置施設においては、従来より、捜査員が被留置者の処遇をコントロールすることを禁止し、捜査部門から組織的に分離された留置部門が被留置者の人権に配慮して適正に被留置者の処遇を行ってきました。被留置者については、防御権の保障のため、罪種に関わりなく、弁護人等とは深夜等を除き、休日や夜間でも面会ができます。また、面会に際しての立会人はなく、時間の制限もありません。さらに、刑事収容施設法では、「捜査と留置の分離」の原則が法律上明記されるとともに、部外の第三者からなる委員会が留置施設を視察し、その運営について意見を述べる制度を新設したほか、行政上の不服申立て制度を整備するなどの改善を行っています。

 

  刑事施設に収容されている被収容者等の処遇については,その人権を尊重しつつ,適切な処遇を行うため,被収容者等の権利及び義務の範囲,その生活及び行動を制限する場合の要件及び手続等を整備した新法に基づき,適切な運用に努めているところです。具体的には,衣類・食事などの給貸与,自弁物品の使用の範囲・要件の明確化,適切な保健衛生上・医療上の措置といった被収容者の生活水準の保障,外部交通の保障・拡充,不服申立て制度の整備などの面に関し,旧法下に比べ,より被収容者の人権に配慮した処遇を行っているところです。刑務所等の過剰収容の問題に関しても,刑務所等の新設等により,収容能力の拡大に努め,これを解消しているところです。

 

10.死刑問題に関する質問を頂きましたが、死刑制度の存廃の問題は基本的に各国において当該国の国民世論、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討されるべきものであり、それぞれの国において独自に決定すべきものと考えています。我が国における死刑制度の存廃は、国民世論に十分配慮しつつ、社会における正義の実現等種々の観点から慎重に検討すべき問題であるところ、国民世論の多数が、極めて悪質な犯罪については、死刑もやむを得ないと考えており、多数の者に対する殺人、誘拐殺人等の凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況等にかんがみると、その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては、死刑を科することもやむを得ないと考えます。したがって、死刑廃止を前提に死刑執行の猶予を求める本決議を支持することはできず、国連総会本会議における本決議の採択を受けて、死刑執行の猶予及び死刑の廃止を行うことは考えていません。なお、日本においては、死刑は、殺人、強盗殺人等の重大犯罪についてのみ法定刑として定められており、その判決は、極めて凶悪な事案について、裁判所が慎重な審理を尽くした上で言い渡されています。

 

11.また、裁判員制度に関するご質問を頂きました。我が国においては、2009年5月より裁判委員制度を導入する予定です。裁判員は、有罪・無罪の決定及び刑の量定については、裁判官と同等の権限をもって判決内容の決定に関与します。こうした判断の前提として必要な法的知識や刑事裁判の手続については、公判審理開始前、公判審理の間あるいは最終の評議等の場をとらえて、裁判官から丁寧な説明がなされるものと考えています。そして、裁判員制度は、裁判官と裁判員が共に評議し、相互のコミュニケーションを通じて、それぞれの知識・経験を共有し、適正な結論に到達することが期待されます。このように、裁判官と裁判員が協働することにより、裁判員制度の下においても、公正な裁判が行われるものと考えています。

 

12.最後に、UPR政府報告を作るにあたっての市民社会の関与に関する質問がありました。
 まず、各人権条約の政府報告を作成する過程において、一般国民・NGOとの意見交換会を開催してきました。また、NGOと外務省の共催で2005年8月より過去6回実施してきた「国連改革に関するパブリック・フォーラム」においても、毎回人権分科会を設けUPR等人権理事会の議論も含め、NGO関係者や市民、国際機関関係者、および外務省関係者との間で人権問題について意見交換を行っています。また、外務省はUPR報告書の作成に当たり、外務省ホームページ上にUPRの仕組み、プロセス等を掲載した他、一般国民を対象に本報告書に関する意見募集を行いました。その結果、11のNGO及び214人の一般市民からの意見が寄せられました。

 結語 

13.未だ改善の余地のある分野もありますが、我が国は、今後も、国内人権状況の更なる改善のために努力していく所存です。

 

 世界では、グローバル化や環境の変化に伴い、新たな種類の人権問題が発生し、各国政府はその解決のための対策を迅速にとる必要に迫られる機会が発生しています。我が国は、今後も、国連、地域社会、各国政府、市民社会等と緊密に協力しつつ、人権分野においてより良い成果を上げることのできるよう努力を継続して参ります。

 

 本日は、我が国の人権状況に関し、ただ今御説明した内容以外の分野に関しても、本インターアクティブダイアログの中で皆様と意義のある意見交換ができることを希望します。(了)