特集「外交における料理の創意工夫」

第2弾「現地の食材を活かす」料理:オンブル・シュヴァリエ アオサ海苔のクリスティアン季節の野菜のリゾット風 ~柑橘風味~ジュラワインのソース

 「スイスの食材」というと何を思い浮かべるでしょうか。チーズの女王グリュイエールチーズやシャスラ種(別名:ファンダン種)のぶどうを使った白ワインはもちろん有名ですが、レマン湖産幻の魚「オンブル・シュヴァリエ」というイワナ(岩魚)の一種(和名:アルプス岩魚、キタイワナなど)もスイス特有の食材として、当地ではよく知られています。


 今回はこのスイス食材「オンブル・シュヴァリエ」にスポットを当てたいと思います。


日本に生息するイワナとの違い
 イワナはサケ科のため成長期に海や湖へ下り、大人になり川を遡上します。日本の川は長さが短く、標高差があり、流れが速い世界でも有数の急流な川がほとんどです1。そのため、日本のイワナは急な川の流れに耐える力や筋肉がついており、身が締まると考えられます。身が締まったイワナの料理法としては食べたときの歯ごたえの良さが活きる揚げ物や焼き物、刺身などが向いております。
 一方、オンブル・シュヴァリエは緩やかな流れのロワール川2に生息し、捕食にも困らず、緩やかに運動し成長するため、脂がよく乗っています。身質は日本のイワナと比べるとデリケートですので調理の際には繊細に扱う必要があり、西洋料理においても主に蒸したり、優しくムニエルにするなど低温調理が向いています。脂肪分は多めですがその割にクセもなく、身質は細かくて柔らかいため、口の中で溶けるように味わえます。

1 例えば日本一長い信濃川は標高2200m地点から水が湧き、367kmを経て日本海へ流れる。
2 スイスのレマン湖を通るフランスで一番長い川。標高約1400m地点から約1006kmの海までの距離を平野に出て緩やかに流れる。


オンブル・シュヴァリエの捌き方・和食への活用
 次にご家庭でも活用していただけるように、和食専門の川島公邸料理人にオンブル・シュヴァリエの捌き方と適した和食について伺いました。

川島料理人「基本的な捌き方は身の柔らかい魚と身の引き締まった魚で向き不向きがありますが、イワナとオンブル・シュヴァリエでは捌き方に相違はありません。今回の食材であるオンブル・シュヴァリエは非常に身が柔らかい魚なので、潰れやすく、かつ割れやすい身が特徴であるため、三枚おろしの中でも包丁の入れる回数の少ない『大名おろし』という捌き方が向いています。」



「和食におけるオンブル・シュヴァリエの料理としては、フワフワした柔らかい身を活用し、おろしポン酢と共に蒸し物に。また椀物として、一口大に切って、相性の良いさっぱりとした清汁の種とするのも良いです。一方、日本のイワナは身が締まっているので上記で述べたとおり歯ごたえの良さが残る姿焼きや姿揚げが向いています。」

オンブル・シュヴァリエ+和食テイスト
 このような違いを踏まえ、最後に先日実際にお客様に提供したオンブル・シュヴァリエに和食のアレンジを加えた料理を簡単にご紹介いたします。

   まず、オンブル・シュヴァリエの皮をすき、蒸す際に水と一緒に"コアントロー"というオレンジリキュールを加え、蒸しながら魚にオレンジの香りを優しく移していきます。蒸した後にアオサ海苔を混ぜたパン粉を皮側に付け、皮側だけを短時間でカリッと焼きます。蒸されてふっくらした身とカリッとした皮側で食感にギャップを与え、リズムのある食感を作ります。そうする事により脳に刺激を与え美味しさを脳でも味わっていただけるようにしております。
 ソースは、スイスとフランスを隔てるジュラ山脈付近で作られるジュラワインを使用し、主材料や付け合わせとバランスのとれたソースに仕立てます。
 付け合わせは、季節の野菜をリゾット風にし、季節感を感じていただきます。その際にスイスチーズのなかでもクセが少なく旨味が多いスブリンツチーズとグリュイエールチーズを使用し、さらにアクセントとして柚子果汁を加えて爽やかにまとめます。蒸す際に魚に移したオレンジの香りと同じ柑橘系の柚子を加えることにより、香り/風味のバランスが全体的に安定します。ひいては柚子の香りとアオサ海苔の風味で「日本」を感じていただければとも思っております。



終わりに
 同じような食材でも国や地域によってその食材が育った環境、捕獲法や収穫法、そこからの流通や消費されるまでの過程は大きく異なります。
 公邸の会食の場では、こうした現地の食材を使った料理に日本の食材を加えることで、「ようこそジュネーブの日本大使公邸へ!」という歓迎の気持ちを込めています。
 外交官としてその国の代表と交渉を円滑に進めるには、現地の歴史や文化に精通することが必須だと思います。私たち公邸料理人は「食」を通じて外交を手助けする「食の外交官」と自負しておりますので、その土地の食材のルーツを知り、その土地の伝統を知り、「現地の食材」を生かす方法を模索し提供することが仕事であり、料理人としての楽しみややりがいでもあると思っています。