館員の声: 小林有紀 専門調査員

 私が人権担当の専門調査員としてジュネーブ代表部に赴任して、約2年の任期を終えるにあたり、業務を振り返りつつ、人権理事会におけるビジネスと人権に関する議論の一端、またその国内実施に向けた取組をご紹介したいと思います。

【筆者:人権理事会終了後の議場にて】

1.人権理事会概要

 2006年に設立された人権理事会は、選挙によって選出される47か国の理事国によって構成されており、その他の国連加盟国は、非理事国として活動しています。(日本は、2016年は非理事国でしたが、2017年~2019年は理事国として活動します。)3月、6月、9月に年3回開催される人権理事会通常会期では、毎会期30本程度の決議案が提出され、テーマ別や国別の人権状況に関して、どのように人権の保護・促進を図っていくか、幅広い議論が行われています。
 人権理事会において採択される決議は、強制力のある国連安全保障理事会の決議と異なり、強制力のない、いわゆるソフトローであり、その役割は、特定のテーマや国の人権状況に関して世論を喚起し、こうあるべきとの目標を設定していくことにあります。即ち、実地での人権状況を改善していくためには、各国がどのように国内で取組を進めていくかにかかっています。

2.ビジネスと人権に関する議論

 私が担当してきたテーマの一つである「ビジネスと人権」は、グローバル化が進む中で、企業活動に関連する人権侵害を防ぎ、人権を保護・促進していく必要があるとの認識で生まれてきた議論であり、人権の各論の中では比較的新しいテーマです。多国籍企業を多く抱える先進国と、企業活動による環境への影響を受けたり、自国内で労働者が脆弱な立場に置かれがちな途上国側とが対立することのある問題ではあるものの、2011年には、人権理事会で「国連ビジネスと人権指導原則」(以下「指導原則」)がコンセンサスで承認(エンドース)されました。また、その後の人権理決議やビジネスと人権専門家作業部会の報告書によって、各国が「指導原則」に基づく国別行動計画を策定するよう求められてきました。
 また、2013年6月の第26回人権理で、南ア及びエクアドル主導の決議によって、「指導原則」だけでは不十分であるとの考えに基づき、ビジネスと人権に関する条約策定に向けた政府間作業部会の設立が決定される等関心が高まる中、実際に各国が取組を進めていると示していく必要性は増しています。

3.国別行動計画の策定に向けて

 我が国としても、「指導原則」に基づく国別行動計画の策定に向けた検討を行ってきましたが、その過程では、各国の考え方や取組を積極的に情報収集し、ジュネーブにおける議論を正確に東京の外務本省に伝えるよう心がけました。特に、考え方が近い国だけでなく、異なる意見を持つ国がどのような論理でそのような考え方に至っているのかを理解することに心をくだきました。
 さらに、2016年4月にカタールで開催された第1回ビジネスと人権アジアフォーラムに出張する機会があり、これは、アジア地域でどのような問題が重要視されているのか、各国政府がどのような取組を行なっているかについて聴取し、国連ビジネスと人権専門家作業部会の委員や、市民社会や企業関係者もフォーラムの参加者と意見交換を行う貴重な機会となりました。カタールで開催予定のFIFAワールドカップに向けた準備における移民労働者の人権に関しては、市民社会と政府の間で喧々諤々の議論が行われ、2020年に東京オリンピック・パラリンピック開催を控える我が国としても人ごとではないと感じました。

【エクアドル代表部の出張者とともに:カタールにて】
 

 同時進行的に、東京では各省庁との協議が行われており、2016年11月にジュネーブで開催された第5回ビジネスと人権フォーラムでは、国別行動計画のセッションにて、当代表部志野光子大使から、我が国は、「指導原則」を支持している旨、また、数年以内の国別行動計画策定に向けて、関連省庁と予備的な議論を開始した旨のステートメントを実施しました。その後、12月22日に発表された持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための具体的施策においても、数ある施策の1つとしてビジネスと人権指導原則に関する国別行動計画の策定が盛り込まれました。

4 最後に

 今後も、人権理事会、G7、G20を含む様々な場において、責任ある企業活動やサプライチェーンにおける人権については議論が深められるものと思われ、多国籍企業を多く抱える我が国としても、無関心ではいられません。企業や市民社会など幅広い関係者と力を合わせていく必要がある分野でもあり、本稿が、少しでも多くの方に本分野での議論を知って頂くきっかけになれば幸いです。