館員の声:橋本紗恵子 二等書記官 

「走る,話す,詰める:若手外交官の仕事」

 私は,2012年に外務省に入省し,2年間の東京勤務,そして2年間の米国ボストンでの在外研修を経て,2016年6月から在ジュネーブ日本政府代表部に勤務しています。多くの同僚とともに世界貿易機関(WTO)を担当していますが,ここでは専門用語が飛び交う会議や昼夜に渡る熱い交渉・・・ではなく,若手職員が主に担当する,そうした外交活動を支える土台となる通称ロジ(logistics)業務や通訳業務について紹介したいと思います。



 WTO交渉の主舞台は各国代表部のあるジュネーブのWTO本部ですが,ジュネーブ外での閣僚間の会議もかなり定期的に行われています。私は着任以来,オスロ(ノルウェー),ダボス(スイス),パリ(フランス)及びマラケシュ(モロッコ)で行われたWTO非公式閣僚会合と,昨2017年12月にブエノスアイレス(アルゼンチン)で行われた第11回WTO閣僚会議(MC11)に携わりました。会議となると,そうですか,じゃあ行きましょう,では終われません。日本として何を発言し,どういう成果を求めていくかという中身に加えて,どこが会場か,どういう形式か,何人が議場に入れるのか,どの国の誰が来るのか,といったことを確認し,日本から誰が出るか,どこに泊まるか,移動はどうするか,警備は大丈夫か等々,行ってから帰ってくるまでの一切合切を考えて手配する必要があります。また,そうした機会を捉えて二国間協議をするとなれば,アポイントメントを取り付け,場所や日時,席次まで考える必要が出てきます。



 当初は,「そこまでやるの?」というほど細かく詰めていくことに正直困惑しましたが,関係する人の動きをきちんと整理しておくことで,迷ったり,会議に遅れたり,相手を待たせたり,逆にこちらが待たされたりといったこともなくなり,交渉や議論といった大事な外交活動に専念できることになります。特に,短期間で議論したり交渉をまとめたりしなければならない会議において,複雑な技術的論点も含めて何時間も交渉をする人たちが,次はどこに行かなければならないか,移動手段は何かといったことまで自分で考えなければならないとなると,なかなか集中できません。そういう意味でロジの仕事は全体にとっても非常に重要で,おろそかにはできないものです。こうした日本のロジ力の高さは,(良くも悪くも)各国内で定評があります。(さすが日本,と褒める人もいればちょっと細かすぎるよ・・と苦笑する人も。)



 もちろんこれらは一人で全部できるものではなく,外務本省や会議が行われる国の在外公館の人たちと協力して進めていくものです。また,WTO交渉は,普段からそうですが,外務省のみで成り立つものではなく,経済産業省,農林水産省,財務省を始め,多数の省庁が関わるので,閣僚級の会合となれば各省から出席するため,いきおい日本の代表団は大人数になります。多くの人がそれぞれの仕事をしつつ,チームジャパンとして最大の成果を生み出せるよう連携するためにも,ロジ調整が求められます。私はMC11の際には日本代表団の調整役として,外はWTO事務局と,中では各省担当とあらゆる事項を話し合いました。大代表団ゆえに事務局に無理をお願いすることもありました(とにかく誠心誠意頼み込むのみです。)し,MC11の現場でも,国際会議にはよくあることですが,行ってみたら事前情報と違った,急に変更になった等であちこち確認し走り回っていたら,一息ついた時に会議場前の入場管理をしていた事務局の人に「大変だね。もはや事務局でキミのことを知らない人はいないと思うよ」と言われました(笑顔だったので良かったです)。



(MC11でのJAPAN席。いつか座る側になる・・・かも。)

 もう一つ,若手の仕事として通訳があります。私は研修上がりと言われる,在外研修を終えて初の在外公館勤務ですが,WTO関係に限らず,要請があり予定が合えば出張という形で通訳をすることもあります。私は帰国子女でもないですし,本当の外交活動の通訳となるとやはり話が違います。初めての通訳業務の前は,それこそ通常業務の合間や土日も使って出来る準備はしたものの,ものすごく緊張しました。立ち話と言われる,挨拶や短時間の話でも,関係構築の第一歩ですし,日本側の印象を左右するかもしれないので,流れを断ち切らないようにスムーズに訳すことが求められます。二国間会談では,専門的な話も含め,予想外の話題が挙がることもありますし,相手が延々と話していて,記憶と乱雑なメモを頼りにこちらも延々と訳せざるを得なかったこともあります。これまでに幸いにも様々な機会をいただきましたが,毎回準備をしながら不安と戦い,終わったあとは多くの反省に苦悩するような状態です。それでも,外交の世界を直接的に支える仕事であり,終わった後に相手の人が「あなたのおかげでスムーズに話ができました,Good job!」などと言ってくれた時は達成感を感じうれしかったです。



(中央で通訳する筆者。声は平気でしたが脚は震えていました。(写真:外務省))

 通訳はともかくロジ業務については,一般の方が考える外交官の仕事のイメージとは必ずしも一致しないかもしれませんが,段取りとタイミングが大きく中身を左右することもあり,外交はこうした土台がきちんとして初めて進められると思っています。また,若手にとっては,こうした業務は外交のイロハを学び,横目で上司の知識と外交スキルを盗む(?)機会です。こうした一面について,特に外交官を目指す学生の方などのご参考になれば幸いです。



(筆者@MC11。合間に記念で撮りました。)