館員の声: 平嶋壮州 参事官


モザイク模様の国際機関(ILO)

1.三者構成

 国際機関というと「国と国が出会う」という文字通り普通は各国政府で構成されるものがほとんどですが、ILO(国際労働機関)は各国政府に加えて労働組合(日本は連合が代表)と使用者団体(日本は経団連が代表)も構成員となる三者構成になっています。政府、労働者、使用者の投票権は2:1:1になるように調整されており、これが独特のダイナミズムを生み出します。政府間のみの会議であれば、先進国・途上国、地域による特色、国同士の一定の配慮などからある程度議論の動向を予見できますが、これに基本的に急進的な労働者グループと基本的に保守的な使用者グループが加わるとモザイクの様相を呈し、多くの議題について議論は予断を許しません。

 

 日本政府はアジア太平洋グループと先進国グループという2つの政府グループに所属していますが、労使グループの動向をタイムリーに把握しながら、この2つのグループを使って政策目標が実現するように努めています。

 

   

        【政労使三者の車輪を描いたILOのロゴ】              【理事会議場の筆者】

2.理事会議長

 ILOでは事務局の運営方針を決定するため年に3回理事会(11月、3月、6月(1日のみ))が開かれますが、2015~16年期の理事会議長には当代表部の嘉治美佐子大使が選出されました。議長の役割は2週間にわたる理事会で議事を進行することはもちろんのこと、政策、予算、人事など事務局運営のあらゆる面について日常的に事務局から相談を受け、労使選出の副議長とともにさばいていくことも含まれます。

 

 なかでも最も取扱いが難しいのが条約違反で他国や労使から訴えられる個別国案件ですが、議長任期中、理事会の議論が最も白熱したカタールには嘉治議長と労使の副議長が揃ってハイレベル訪問を行いました。一週間に亘る訪問中は朝から晩まで首相をはじめ多くの関係者と会い、多くの場所を視察しましたが、そのやり方について現地で政労使の侃々諤々の議論が行われ、国際政治の縮図を見る思いがしました。ようやく報告書をまとめて次の理事会でカタールの一層の努力を促す決定がなされましたが、その過程にもまた多くの調整がありました。

 

 このように精力的に活動した嘉治議長に対して6月理事会での退任時には政労使の代表から多くの賛辞が送られましたが、労働者側副議長が1年間議長補佐を務めた私にも言及してくれたのは嬉しい驚きでした。とにもかくにも、日本政府がILOの運営をリードし、大いに存在感を高めた1年となりました。

 


【理事会議長(嘉治大使・左)に随行してカタールの工事現場を視察する筆者(右)】

3.「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」

 一仕事終え離任も近づいた今年7月、お隣フランスの南部で大型トラックを使ったテロが発生し多くの命が失われました。その週末の夜、たまたまレマン湖畔を通りがかると高さ140mの大噴水がカラフルにライトアップされているのを目にしました。はっとするほど綺麗でしたが、すぐにそれが犠牲者への追悼であることに気づきました。

 

 そう気づくとその光景が何とも儚いものに見え、同時に「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」というILOの設立理念が思い出されました。ILOは第1次世界大戦後、ヴェルサイユ条約によって設立されましたが、世界の平和のためには一部の貧困を放置してはならないという教訓から生まれたものです。国内の不満のはけ口を外に求める戦争は史上数え切れないほど繰り返されてきましたし、最近は貧しい若者が自らの命を省みないテロのニュースを毎月のように目にします。それはILOが今もその重い課題を背負い続けているということでもあります。

 

 一層グローバル化する経済、労働者の非正規化、労使団体の組織率の低下という世界的な潮流の中でILOはその100周年に向けて方向を模索しています。


【トリコロールにライトアップされたレマン湖の大噴水】